最新記事

ハンガリー

ソロスのNGOがハンガリー政府を提訴

Open Society Foundations Sues Hungary Over Soros Law

2018年9月25日(火)18時30分
クリスティナ・マザ

ソロス(中央)と野党指導者たちが国境のフェンスを壊して移民を招き入れる、と脅したハンガリー政府のポスター Bernadett Szabo-REUTERS

<移民や外国人や異教徒の排斥を進め、どんどん「ワル」になるハンガリーの不気味さ>

国際NGOのオープン・ソサエティ財団は、人権を侵害し民主主義を制限する法律を施行したとして、ハンガリー政府を訴えた。

ハンガリー出身の投資家で慈善家でもあるジョージ・ソロスが設立した同財団は、フランスのストラスブールにある欧州人権裁判所に対し、ハンガリー政府が制定した「ストップ・ソロス法」がEU(欧州連合)における表現の自由ならびに結社の自由を侵害していると申し立てた。

【関連記事】「再来ユーロ危機」投資家ソロスの大胆予測と崩壊EUの処方箋

財団は9月24日に発表した声明で、「ハンガリー政府が制定したいわゆるストップ・ソロス法を無効にするよう求める。ストップ・ソロス法は、移民管理という口実の下に、NGOの活動を非合法化して課税するものだ。この新法は、欧州評議会で定められた『人権と基本的自由の保護のための条約』に違反している」と述べた。

ハンガリーでは、右派のビクトル・オルバン首相が圧倒的な勝利をおさめた直後の2018年6月、難民や移民に対する支援を犯罪とみなす「ストップ・ソロス法」が成立した。ソロスの名前が付いているのは、難民や移民の流入を招いているのは他ならぬソロスだ、とオルバンは主張していたからだ。

この法律によれば、移民や難民の入国を助けたり、必要な情報を配布したりすると、投獄される可能性さえある。「不法移民を支援する」組織はすべて政府に登録するよう求められており、移民受け入れに賛成するような表現をした場合には25%の税金が課される。

首相は外国人排斥で再選

7月にはEUも、ストップ・ソロス法はEU法に違反すると判断。改正しなければ、欧州司法裁判所で訴訟を起こすと示唆していた。

オルバンは2018年4月、ソロスのようなユダヤ人やイスラム系移民を攻撃する選挙活動を繰り広げで再選を果たした。

セルビアと接する南部の国境沿いにフェンスを設置して難民や亡命希望者を締め出した。国境付近の難民キャンプに収容した移民に食料を与えず、難民申請が却下された移民をキャンプから追い出し、セルビアに強制送還しているとの報道もあった。

【関連記事】ハンガリーで民主主義の解体が始まる──オルバン首相圧勝で

2017年3月にはハンガリーの外国人法が改正され、警察は難民申請の審査もせずに移民を国外追放することが可能になった。

9月に公表された欧州評議会のレポートにはこう記されている。「ハンガリーの警察は、国内の非正規移住者をいつでも拘束し、国外に追放する権限を与えられた」

オープン・ソサエティ財団は2018年5月、政府からの介入を理由にハンガリーの事務所を閉鎖、8月にドイツのベルリンに移った。

欧州議会は9月12日、ハンガリーではEUの基本理念が「大きく踏みにじられるリスクが明らかに存在している」という決議を採択した。今後の展開によっては、EUにおけるハンガリーの議決権が停止される可能性もある。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中