沖縄県知事選挙に吹く、新しい風
アイデンティティの対立か、両立か?
このような世代にとっては、ウチナーンチュとしてのアイデンティティは、日本人としてのアイデンティティと対立するものではなく、両立できるし、日本の中の沖縄という位置づけにも満足できるのだ。であれば、ことさらに本土政府との関係を拗らせるのではなく、協調するところは協調して、沖縄のためになることを、政府から引き出していこう、ということになる。
一方の玉城デニー候補は、翁長前知事のアイデンティティ論を引き継ぐとしている。そのことが意味するのは、歴史を忘れてはいけないというメッセージだ。しかも、その歴史の延長である今日も、基地負担の押し付けは続いている。決して過去の話と片づけられるものではない。そこにあるのは、沖縄と本土との関係の中にある構造的差別の問題である。そうした考え方に、純粋であるがゆえに、共鳴する若者も少なくない。
この二つのアイデンティティ論(厳密にいえば、一方はアイデンティティ論の否定であるが)のいずれが優勢となるか、というのが、表面的な基地問題という争点の背後にある、隠された重要なテーマであると言っても過言ではない。
そして、そのカギとなるのが、若い世代の動向だ。前回4年前の知事選挙の時には選挙権がなかった24歳から18歳までの若者、およそ10万人(厚生労働省の人口動態統計による)が今度の知事選で初めて投票する。
こうした若者のなかに、新世代の保守がどれほど浸透しているのか。あるいは、翁長前知事のアイデンティティ論への共感が世代を超えて根付いているのか。どちらの方向をより強く若者が示すかが、こんどの選挙の分かれ目になると言えよう。
[執筆者]
山田文比古
東京外国語大学教授。専門は、現代外交論、フランス政治外交論、日本外交論。1980年京都大学法学部卒。同年外務省に入省。沖縄県サミット推進事務局長、外務省欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使などを経て、2008年から現職。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)、『オール沖縄VS.ヤマト』(青灯社、2014年)など。当ウェブコラム連載「フランスを通して見る欧州情勢」はこちら。