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世界各地とオープンにつながり、創造性とイノベーションを促進。グローバル企業の確かなルーツとなる「武田グローバル本社」

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2018年9月28日(金)16時00分
文=笠木恵司 写真=鈴木勝

「武田グローバル本社」の受付がある4階フロア。福富康浩経営企画部長兼社長室長の背景にあるのは国産ヒノキの無垢材で作られたベンチ。

<日本の製薬業界のトップであり、総額約7兆円に達する超大型の企業買収でも話題となった武田薬品工業(武田薬品)の「武田グローバル本社」が、東京・日本橋本町に完成した。プロジェクト責任者の福富康浩経営企画部長兼社長室長に、新ビルのコンセプトや概要などを聞いた>

武田薬品は創業約240年の歴史を持つ伝統企業だが、グローバル化を積極的に推進。現在では70か国以上の国と地域で事業拠点を展開。世界で3万人の従業員を擁しており、話される言語・方言も30を超える。日本発の堂々たるグローバルカンパニーだが、明治時代に事業拠点があった東京・日本橋本町で2018年3月に「武田グローバル本社」を竣工。7月にグランドオープンした。新ビルは約124mの高さで、地下4階、地上24階。4階以上が武田薬品のオフィススペースとなり、地下1階から地上2階までは一般客も利用できるスポーツジムや飲食店などが入居している。

「長い歴史の中で育んできた武田の価値観を世界に発信していく拠点になります」と、武田グローバル本社の基本的な役割を語るのは、新ビルプロジェクトの責任者を務めてきた福富康浩経営企画部長兼社長室長だ(以下同)。

「グローバル企業だから本社を日本にこだわる必要はないという意見もありますが、『誠実』『公正』『正直』『不屈』という価値観は、創業から約240年の歴史が育んできたものです。私たちのルーツは紛れもなく日本であり、この価値観も日本発祥。だからこそ日本に本社を置き、世界を結んだオペレーションを展開していく。それが日本発のグローバル企業のあり方だと我々は考えます。もともと伝統を大切にする会社ですが、事業の国際化が加速化。このグローバル本社建設をきっかけに、従業員の意識や働き方、武田のイメージもグローバル化できればと考えました。日本を忘れた根無し草では深い信頼を得ることはできません。多国籍はいいけど無国籍になってはいけない。根っ子はここにあることを示すのが武田グルーバル本社の本質的な役割なのです」

濃すぎず薄すぎない、バランスの取れたサジ加減で「和」をアレンジ

ビルの中に足を踏み入れる前から、その「根っ子」を強く感じさせるのが、南側で屹立する朱塗りの鳥居だ。武田グローバル本社は「日本橋再生計画」の一環でもあることから、「福徳の森」が隣接。この森は福徳神社と連続しており、その色鮮やかな鳥居が外国人にはシンボリックに映るのではないだろうか。本社の外観も、低層階は地域の街並みと調和する縦格子が基調。内部のインテリアも「和」を強く意識したという。

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隣接する福徳神社からの外観。朱塗りの鳥居が印象的。「武田グローバル本社」の低層階は地域の景観と調和する縦格子を基調にしており、高層階は空に向かう伸びやかなデザインになっている。

「ただし、あまりにも『和』に振り過ぎればうるさくなるので、そのサジ加減に注意しました。日本人が見ても、外国人の眼からも『和』がほどよく感じられるバランスになったと思います。空間デザインに多用している国産のヒノキも暖かみを感じさせる普遍的な素材であり、ビル全体が働く従業員や訪れる皆さんを優しく包み込むような雰囲気になったと自負しています」

その空間デザインを包括的に担当したのが、様々なプロジェクトを成功に導いてきた売れっ子クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏だ。「生きる力」をコンセプトとして、「人」「絆」「未来」などの漢字をモチーフとした8種類のアートワークやオブジェがビル内各所に様々な形で配置されている。

「私がこのプロジェクトを担当したのは2016年の秋から。当初からこれは単なる引っ越しではありませんと説明してきました。コーポレートブランディングという大切な意義を担っているのです。これをきっかけとして、従業員の働き方が変わってほしいし、マインドもリセットしていただきたい。そのための新ビル建設だと言い続けてきました。では、その理念をどのように表現したらいいのか。慎重に検討した結果、グローバルレベルでの経験も豊富な佐藤可士和さんにお願いすることにしました。デザインにストーリーを持たせ、ブランディングに発展させることができる佐藤さんこそが、最も適任だと判断したのです」

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「土」「木」「人」「絆」「未来」などの漢字をモチーフにしたアートオブジェがロビーやカフェテリアなどビル内各所にあり、ヒノキの香りが快い。

オープンな空間と最先端の情報インフラで世界とつながる

「旧東京本社は約半世紀前に建てられました。多くの従業員が愛着を持つビルでしたが、この間のテクノロジーの進歩、働き方の変化、事業のグローバル化などもあり、この建物では十分に対応できなくなったことが新築の背景です。このため、武田グローバル本社の中心的な機能は、武田のグローバルの司令塔として機能すること、そのために世界各地の拠点と緊密に連携することです」

オフィスフロアはクローズドな会議室を極力排して、可能な限りオープンなスペースとして開放するかわりに、ワンフロアに全従業員が予約できるガラス張りの会議室を集約。この会議室にはテレプレゼンスや同時通訳システムも設備しているほか、世界3万人の従業員を結ぶ社内チャットや会議システムなどによって、海外の従業員やテレワークの人たちとも瞬時にコミュニケーションできる仕組みも整えられている。タケダ・エグゼクティブ・チームも日本はもちろん、アメリカ、スイス、シンガポールなど世界各地の拠点で執務しており、武田グローバル本社をコアとして緊密に情報交換。全世界共通のITインフラを整備しているので、海外からの出張者もすぐに使い慣れた環境で仕事に取りかかれるという。

「こうした機能性に加えて、何よりも意識していたのは、従業員がイキイキと活躍できるオフィスです。そのためにはプロジェクトのメンバーが決めたことを押しつけるのでなく、みんなを巻き込むような形で進めることに時間をかけました。たとえば椅子を選ぶ時も『オフィスチェア総選挙』を実施。6種類の候補を挙げて従業員が投票。それで得票数トップの椅子を採用したのですが、なぜかこれが一番高額。私自身は1500円のバランスボールを推したんですけどね(笑)。オフィスレイアウトも各部門の意見を取り込んでいます」

ちなみに、デスクのほうは「立ち仕事×座り仕事」を自在に切り替えられる昇降型が導入されている。立つ、座るを織り交ぜることによって、個人のワークスタイルに合わせて自由に仕事をすることができそうだ。

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