最新記事

貿易戦争

日韓が漁夫の利? 米中貿易戦争で格安米国産原油が過去最高の輸入に

2018年9月12日(水)16時51分

9月11日、米国産原油の日本および韓国向け輸出は今月、過去最高水準に達する見通しだ。2016年、都内のガソリンスタンド(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon )

米国産原油の日本および韓国向け輸出は今月、過去最高水準に達する見通しだ。米中貿易摩擦に伴って中国の顧客を失いつつある米国の業者が販売価格を大幅に値引きしており、アジアの精製会社が格好の購入機会として利用している。

トムソン・ロイター・アイコンの出荷動向に関するデータを見ると、9月の米国産原油の韓国への輸出は少なくとも平均日量23万バレル、日本への輸出は同13万4000バレルでいずれも過去最高を更新するとみられる。

トレーダー2人とブローカー関係者の話では、韓国と日本の精製会社にとって、米国産指標原油WTIの価格が国際的な指標の北海ブレントに比べて最大で1バレル当たり10ドル安くなっている状況がプラスに働いている。

あるシンガポールの船舶ブローカーは「彼ら(韓国と日本の精製会社)はイランからの輸入の落ち込みの穴埋め先を探す必要があり、米国から(の原油)がかなりの部分を占めつつある」と解説した。

日本と韓国は、米国が11月に発動するイラン産原油取引禁止措置を前にいち早く自主的に購入を手控えており、貿易統計に基づくと韓国は7月以降イランで積み込まれた原油を輸入していない。

もっとも韓国石油精製最大手SKエナジーの親会社SKイノベーション<096770.KS>の広報担当者は「われわれの米国産原油購入は、純粋に価格面の有利さが理由だ」と述べた。

JXTGエネルギー<5020.T>の広報担当者は、イラン産原油輸入の正式な停止命令は受けていないと語った上で、「われわれは調達計画において最適な原油が何かを判断する」とだけコメントした。

WTIの割安化

米国の対イラン制裁発動で中東市場の原油需給が引き締まりつつある中で、アジアの精製会社は代わりに米国からの調達を探り続けてきた。

その理由として先物ブローカー会社アクシトレーダーのチーフ市場ストラテジスト、グレッグ・マッケナ氏は、WTIの北海ブレントに対する割安度合がどんどん大きくなっている点を挙げた。

WTIは、米国内の生産増と中国の買い意欲後退によって業者が新たな買い手確保を強いられていることが、価格の下げ圧力。一方北海ブレントの価格は、米国の対イラン制裁やベネズエラからの輸出急減、リビアの内戦と生産を巡る根強い不安などいくつかの供給リスクに支えられている。

マッケナ氏は、北海ブレントの供給に支障をもたらす紛争や他の要因は依然として多いと指摘した。

ただWTIの北海ブレントに対する割安化がいつまで続くかは分からない。サウジアラビアとロシアがイランの市場シェアを埋めるべく増産に向かう兆しが出ており、実現すれば北海ブレントの価格を圧迫するのは間違いない。

また米国では、パイプラインや港湾、貯蔵施設といったインフラが不十分なために需要急増で輸送のボトルネックが一段と悪化し、WTI価格を押し上げてもおかしくない。

[シンガポール/ヒューストン 11日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中