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北朝鮮北朝鮮の刑務所で「消える死体」......金正恩「恩赦」の裏で何が
この夏、北朝鮮では建国70周年の恩赦が発表されたが KCNA/REUTERS
<北朝鮮では7月に建国70周年の恩赦が発表されたが、家族のもとに「死亡通知書」が送られつけられてくる残酷なケースが多いという>
北朝鮮の最高人民会議常任委員会は7月12日、建国70周年に際して8月1日から大赦(恩赦)を実施することに関する政令を発した。
北朝鮮が大赦を行うのは、日本からの解放と朝鮮労働党の創建から70年となった2015年以来、3年ぶりだ。デイリーNK内部情報筋は7月19日、管理所(政治犯収容所)を除くすべての教化所(刑務所)に収監されている受刑者に対して一律3年の減刑を行うという大赦の内容を伝えたが、これに対する北朝鮮国民の期待は非常に大きかった。
たとえばある受刑者の妻は、デイリーNKに対し次のように語っている。
「今までの7年間、夫を生き延びさせるために食べ物を持って教化所に面会に行ったりしてありとあらゆる苦労をしてきた。あと3年をどうやって耐え抜こうかを悩んでいたところだった。今回のこと(大赦)は夢にも思わなかった」
しかし少なくない人々が、この期待を極めて残酷な形で裏切られ、悲嘆に暮れる結果となっている。
韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によれば、受刑者の帰りを待ちわびていた家族のもとに、本人ではなく「死亡通知書」が送りつけられる例が多いのだという。しかも、遺体は家族のもとに戻って来ず、死亡原因についての説明もないままだとのことだ。
死亡原因はもはや想像するしかないわけだが、北朝鮮の刑務所は、きわめて劣悪な環境で知られる。
食事の内容はひどいもので、受刑者は面会を通じて栄養不足を自ら解決しなければならない。家族がいない、または生活状態が厳しくて面会すらない受刑者は慢性的な栄養失調に苦しめられることになる。
受刑者には、囚人服や毛布、靴、歯磨き粉、歯ブラシ、石鹸などの生活用品は支給されず、これも面会を通じて入手したり、受刑者どうしで取り引きしたりしてやりくりせねばならない。
監房は40人から60人が生活できるほどのキャパシティだが、そこに100人以上が詰め込まれることが多い。人が多すぎるために衛生面でも問題があり、特に夏には監房内をたまに消毒しなければならない。そうしないと伝染病の発病原因になる。出所者からは、伝染病で多くの受刑者が死んだ、との証言が多く出ている。また、安全対策の欠落した工事現場での事故や、虐待による死亡もある。
<参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真>
そのようにして死亡した受刑者の遺体は家族のもとに返されず、裏山などで燃やされ、打ち捨てられてしまうのだ。
あらゆる形の人権侵害が横行する北朝鮮だが、中でも刑務所内部における実態は、我々の想像を絶するものであるのかもしれない。
<参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態>
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。