同胞の保護か中国への配慮か、板挟みになるカザフスタン
新疆ウイグル自治区からカザフスタンに不法入国したサウイトバイは強制送還を免れたが IZTURGAN ALDAUEV-THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES
<中国・新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧に反対する世論に押されて、カザフスタンで異例の判決が下されたが......>
中国西部の新疆ウイグル自治区に隣接するカザフスタンで、予想外の判決が注目を集めている。被告は新疆ウイグル自治区からカザフスタンに不法入国したカザフ系中国人のサイラグル・サウイトバイ(41)。裁判所は8月1日、サウイトバイに執行猶予付きの有罪判決を下した上で、彼女の身柄を中国側に送還せず、亡命申請者として国内にとどまることを認めた。
新疆ウイグル自治区では近年、ウイグル人を中心とする少数民族にイスラム教や独自文化を捨てさせ、中国共産党への忠誠を誓わせるための「再教育キャンプ」が多数作られているとされる。サウイトバイはそうした施設の1つで収容者に中国史を教えるよう強いられ、機密文書などに触れられる立場にあったという。
中国側は彼女の強制送還を求めていた。しかし強制収容施設での人権侵害の実態を裁判で赤裸々に語ったサウイトバイが送還されれば身に危険が及ぶとして、カザフスタンでは送還に反対する世論が高まっていた。
判決後、カザフスタン国内にいる夫と子供と再会したサウイトバイは、支持者の前に姿を見せて喜びをあらわにした。ただし、歓喜の時間は「24時間続かなかった」と、彼女は言う。中国当局が新疆ウイグル自治区内で彼女の姉妹と2人の友人の身柄を拘束したのだ。
新疆ウイグル自治区では伝統的にイスラム教徒のウイグル人が多数を占めていた。だが、中国当局が長年かけて推し進めた漢人の大量入植によって、ウイグル人は人口の半分以下に減少。漢人によるウイグル人への抑圧が問題視されてきた。
事態が一段と悪化したきっかけは、16年に強硬派の陳全国(チェン・チュエングオ)が同自治区党委員会書記に任命されたこと。陳は多数のウイグル人を強制収容施設に収監し、少数民族弾圧の波は同自治区内に暮らすカザフ系やキルギス系住民にも及んでいる。
強く出られない周辺国
弾圧の実態が知られるにつれて、欧米諸国を中心に世界各地で大規模な抗議運動が行われるようになっている。カザフスタンやキルギス、パキスタンといった新疆ウイグル自治区の周辺国でも反中国感情が高まっており、多くの国民が同自治区に暮らす親族や同胞の安全と、家族との再会を強く求めている。
周辺国の政府にとっては悩ましい状況だ。圧倒的な力を持つ中国の内政について、各国政府は強い態度には出られないでいる。中国との関係に国の未来が大きく左右されるのだから、それも無理はない。カザフスタンも「一帯一路」戦略の恩恵にあずかる。