戦後日本で価値観の激変に苦悩した若者たち、現在の社会変化にも共通点が
上記のグラフを見るとわかるが、時代による自殺率の変動が大きいのは青年層だ。20代と人口全体の自殺率の長期推移を描くと、<図2>のようになる。
1950年代後半では、20代の自殺率は極端に高かった。ピークは1958(昭和33)年の54.5で、2016年現在(17.4)の3倍以上だ。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で美化されている時代は、実は青年にとって最も「生きづらい」時代だった。
高度経済成長への離陸期で、社会が大きく変わりつつあった頃だ。当時は戦前と戦後の新旧の価値観が入り混じっていた。それだけに、生きる指針の選択に葛藤を感じる青年が多かった。この辺りの事情は、当時の新聞を読むとよく分かる(「死を急ぐ若者たち、古い考えとの断層・モラル過渡期の悲劇」朝日新聞、1957年12月11日)。当時の統計によると、青年層の自殺動機の首位は「厭世」となっている。世の中が「厭(いや)」になった、ということだ。
また恋愛婚が広まりつつあった頃だが、見合い婚を主張する親に反対されて、無理心中を図る男女も多かった。これなども、時代の過渡期の悲劇といっていい。
その後、高度経済成長期にかけて20代の自殺率は急降下し、80年代初頭には人口全体を下回った。しかし90年代半ば以降上昇を続け、2010年に再び追いついた。就職活動に失敗した大学生の自殺が問題となった頃だ。
最近は、20代の自殺率は低下傾向だが今後どうなるかは分からない。現在も激変の時代(過渡期)と言えるだろう。情報化、グローバル化、私事化(自分を優先させる考え方の広がり)など、人々の生き方を大きく変える社会の地殻変動が進行中だ。
<参考記事:「おカネの若者離れ」で、どんどん狭くなる趣味の世界>
働くことへの意識一つとっても、親世代と子世代では断絶がみられる。自分たちの考えを押し付ける親世代と、それに反発する子ども世代には葛藤がある。最近では、自殺の動機の中で「親子関係の不和」が占める割合が高まっている。
本稿で注目したのは半世紀以上前の戦後の社会だが、現在ないしは近未来の問題にも通じる問題だ。新しい生き方を受容することは、社会を壊すことではなく、社会を変革することにつながるからだ。
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