「いっそ戦争でも起きれば」北朝鮮国内で不気味な世論が台頭
海外に派遣されて働いている労働者の事情も同じだ。
中国の遼寧省にある北朝鮮レストランの支配人は、毎月当局に上納するカネとは別に2000元を上納せよと急に言われたと言って頭を抱えている。美貌のウェイトレスが人気だった北朝鮮レストランは、以前は外貨稼ぎの柱だったが、経済制裁の続く現在は事情が違う。
このような上納金の追加要求は以前にもあったが、最近になってその頻度が高まっているという。最近は商売がうまくいかず、月々の上納金を納めるだけでも必死なのに、急にそんな大金を納めろと言われて仕方なしに従業員の給料から天引きすることにしたという。当然ながら、従業員は不満たらたらだ。
「元々毎月いくらかを忠誠の資金として天引きしているのに、さらにその額を増やすとなったので、従業員の間で不満が高まっている」
支配人は、このままでは従業員が逃亡、脱北しかねないと心配している。
好転しない経済状況に加え、事実上の税負担が増えるばかりの状況に、ある平安南道(ピョンアンナムド)の住民は極端なことを考え始めた。
「地方で集めたカネで平壌市民を食わせていることぐらい、誰でも知っている。地方には電気すらないのに、平壌だけは電灯が煌々と灯っている。ただでさえお先真っ暗なのに、最近は9.9節だ、元山だ、などと言って、大金を出せと迫られる。戦争にでもなればいいのに」
絶望からやってくる「戦争待望論」は、中朝、南北、米朝と相次いで行われた首脳会談を 契機に鳴りを潜めていたが、「これで豊かになれる」という期待が裏切られ、一向に楽にならない暮らしへの嘆きから、再び頭をもたげつつあるようだ。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。
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