遂に正体を表した習近平──南北朝鮮をコントロール
しかし、討論をした相手が韓国の外相(外交部長官)ではなく国家安保室の室長だったことは、明らかに「THAAD配備」や「終戦」といった国家安全に関わる問題に関して話し合ったことを示唆する。
また事実、楊潔篪氏の7月中旬再訪韓を受けて、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は7月25日、「中国も朝鮮半島問題で共に協力しなければならない重要な相手国」と発言している。
楊潔篪氏の一連の訪韓によって、中国は韓国にも「段階的非核化」を認めるよう、強く要求したものと解釈していいだろう。韓国政府側の発言はその後、そちらの方にシフトしている。
これにより中国、ロシア、韓国という、北朝鮮に隣接する3ヵ国が事実上「段階的非核化」という北朝鮮の主張に歩調を合わせたことになろうか。
習近平の金正恩に対する飴と鞭
習近平国家主席は金正恩委員長の訪中を3度も受け入れ、いずれの場合も「段階的非核化を支持し、認める」と明言している。但し、北朝鮮に対しては「非核化をする意思が強固であること」と「終戦宣言等、朝鮮半島の平和体制構築プロセスに必ず中国が参与すること」を絶対条件として要求している。
その上で、6月11日付けコラム<北朝鮮を狙う経済開発勢力図>にあるような4大開発区に対する支援を約束しているのである。
また7月9日付けのコラム<金正恩は非核化するしかない>や、その他関連のコラムに書いてきたように、中国は「人道支援」という国連安保理経済制裁から除外されている迂回ルートを用いて、対北経済支援をしてきた。この「人道支援」の枠組みさえ使えば、「現金」でさえ、北朝鮮に投入することができるのである。
事実、7月31日の聯合ニュースは、中国が北朝鮮に「医療支援」という「人道支援」の名目で、1100万元(1億8000万円強)を投入したと伝えている。
これは氷山の一角に過ぎず、「人道支援」という大義名分を振りかざせば、事実上、何でもできるのである。
7月26日付けコラム<誰に見せるためか?――金正恩氏、経済視察で激怒>で書いたように、金正恩が北東部の咸鏡北道(ハムギョンプクト)にある漁郎川(オランチョン)水力発電所建設現場やカバン工場を視察すると、ほどなく北部一帯の電気が「突然!」使えるようになったとアジアプレス・インターナショナル(7月27日配信)が報道している。
カバン工場がある清津(チョンジン)は、中国が約束している開発区の一つである。
「習近平に対して怒って見せた甲斐があった」と解釈しない方がおかしいだろう。
こうして習近平は、朝鮮半島の主導権を、しっかり握りつつあるのだ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。