最新記事

中朝関係

遂に正体を表した習近平──南北朝鮮をコントロール

2018年8月1日(水)18時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

しかし、討論をした相手が韓国の外相(外交部長官)ではなく国家安保室の室長だったことは、明らかに「THAAD配備」や「終戦」といった国家安全に関わる問題に関して話し合ったことを示唆する。

また事実、楊潔篪氏の7月中旬再訪韓を受けて、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は7月25日、「中国も朝鮮半島問題で共に協力しなければならない重要な相手国」と発言している。

楊潔篪氏の一連の訪韓によって、中国は韓国にも「段階的非核化」を認めるよう、強く要求したものと解釈していいだろう。韓国政府側の発言はその後、そちらの方にシフトしている。

これにより中国、ロシア、韓国という、北朝鮮に隣接する3ヵ国が事実上「段階的非核化」という北朝鮮の主張に歩調を合わせたことになろうか。

習近平の金正恩に対する飴と鞭

習近平国家主席は金正恩委員長の訪中を3度も受け入れ、いずれの場合も「段階的非核化を支持し、認める」と明言している。但し、北朝鮮に対しては「非核化をする意思が強固であること」と「終戦宣言等、朝鮮半島の平和体制構築プロセスに必ず中国が参与すること」を絶対条件として要求している。

その上で、6月11日付けコラム<北朝鮮を狙う経済開発勢力図>にあるような4大開発区に対する支援を約束しているのである。

また7月9日付けのコラム<金正恩は非核化するしかない>や、その他関連のコラムに書いてきたように、中国は「人道支援」という国連安保理経済制裁から除外されている迂回ルートを用いて、対北経済支援をしてきた。この「人道支援」の枠組みさえ使えば、「現金」でさえ、北朝鮮に投入することができるのである。

事実、7月31日の聯合ニュースは、中国が北朝鮮に「医療支援」という「人道支援」の名目で、1100万元(1億8000万円強)を投入したと伝えている。

これは氷山の一角に過ぎず、「人道支援」という大義名分を振りかざせば、事実上、何でもできるのである。

7月26日付けコラム<誰に見せるためか?――金正恩氏、経済視察で激怒>で書いたように、金正恩が北東部の咸鏡北道(ハムギョンプクト)にある漁郎川(オランチョン)水力発電所建設現場やカバン工場を視察すると、ほどなく北部一帯の電気が「突然!」使えるようになったとアジアプレス・インターナショナル(7月27日配信)が報道している。

カバン工場がある清津(チョンジン)は、中国が約束している開発区の一つである。

「習近平に対して怒って見せた甲斐があった」と解釈しない方がおかしいだろう。

こうして習近平は、朝鮮半島の主導権を、しっかり握りつつあるのだ。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中