最新記事

フランス

多人種チームのW杯フランス代表が、移民の子供たちに見せた夢

A WAY OUT OF THE BANLIEUE

2018年7月26日(木)11時20分
ヘンリー・グラバー

優勝したフランス代表チームは多民族国家のロールモデルとなれるか Christian Hartmann-REUTERS

<アフリカ系移民2世のエムバペの活躍は、サッカーで身を立てるしかないパリ近郊の縮図だ>

1カ月以上にわたって世界を熱狂させたサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会は、フランス代表チームの優勝で幕を閉じた。

1998年のフランス大会に続く2度目のW杯制覇を牽引したのは、19歳の若き新星キリアン・エムバペ。カメルーン出身の父とアルジェリア系の母を持つ移民2世のエムバペの活躍は、この20年間フランスのサッカー界に付きまとってきた疑問を改めて突き付けた。

多人種・多民族の選手が完璧に調和しながらプレーするフランス代表チームは、人種や宗教によって分断された国々にとってロールモデルとなり得るのかという疑問だ。

そんな期待はリベラル派の幻想にすぎないという声もある。確かに2015年から移民・難民によるテロが相次ぎ、非常事態宣言が2年近く続いたことを考えれば、W杯優勝によって国民がつかの間の一体感を味わえただけで十分かもしれない。

それでも、代表チームの人種構成が、パリ近郊に暮らすマイノリティーに大きな夢――人種差別のない社会が到来するといった絵空事の夢ではなく、個人レベルの成功への夢――をもたらしているのは事実だ。

エムバペが生まれ育った町ボンディは、パリ北東部に隣接するセーヌ・サンドニ県にある。アフリカの旧植民地出身の移民の子孫が多く暮らしており、行政からの補助を受ける低所得者層が集中していることでも知られる地域だ。

同時に、サッカーの才能もセーヌ・サンドニ県を含むパリ近郊に集中している。代表チームの選手の3分の1は、「バンリュー(郊外)」と呼ばれるパリ近郊の低所得地帯の出身だ。フランス人プロサッカー選手の3分の2は、パリとその周辺県で構成されるイル・ド・フランス地域圏から輩出されている(人口はフランス全体の2割にも満たないのだが)。

アラブ系の複雑な心境

昔からそうだったわけではない。98年W杯の代表チームで、この地域の出身者は3人。84年の欧州選手権を制したチームにはわずか1人だった。エムバペのようなアフリカ系移民の子孫たちが新たな流れをつくったわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中