好況に沸く米国経済のパラドックス 景気支えるのは低所得層の貯蓄切り崩し
フィラデルフィアにあるドレクセル大学の消化器科に務める27歳の公認医療助手、マイナ・ホイットニーさんは、こうした苦渋を直接味わった。
3年前、安定したフルタイムの仕事があるから経済的な保証は十分だと確信した彼女は、ローンを組んでホンダ「オデッセイ」と11万9000ドル(約1320万円)の住宅を購入。今もこの住宅に、母親や叔母と暮らしている。
その後、時給16ドル47セント(4割の米労働者が稼ぐ時給より多い)だけでは十分でないことを悟ったという。
「返済するためだけに、毎月貯金を下ろす羽目になった」と語るホイットニーさん。1万ドルあった貯蓄は今や900ドルにまで減り、トイレットペーパーや電気代まで節約するようになった。
ケーブルテレビと、グルーポンの5ドルクーポンで時折映画を見に出かけることが、せめてもの道楽だと彼女は言う。外食をするかと質問すると、一笑に付した。「チケットを買うとか、車のどこかが故障するなんてとんでもない。そうなったら、取り戻すのがさらに大変になる」
貯金を食いつぶす
中間所得層の財務圧迫は、それさえなければ明るい米国経済の展望に影を落としている、とソシエテ・ジェネラルのエコノミスト、スティーブン・ギャラガー氏は指摘する。
「彼らは返済できない債務に頼っている。貯蓄減少と債務不履行の増大は、(全体の)消費を支えきれていないことを意味する」とギャラガー氏は語る。石油や貿易でショックが起きれば、「かなり劇的な消費後退が生じかねない」
今年1月成立した1.5兆ドル規模の減税措置がなければ、過去数年間にわたり年3%前後で拡大してきた消費支出は、すでに頭打ちになっていた可能性があると、一部のエコノミストは警戒する。
オックスフォード・エコノミクスによれば、これまで消費支出成長の大半を牽引してきたのは、有所得者の上位40%における所得増大だった。だが2016年以降、消費支出は主として、有所得者の下位60%を中心とする貯蓄の取り崩しを追い風にしているという。
これは一つには、景気循環の後半になると、低所得層の借り手にとっても融資を利用しやすくなる状況を反映している。
とはいえ、消費の伸びに対して2年連続で低所得層による貢献の方が大きくなるのは、過去20年間で初めての現象だ。
「一般的に、人々が支出を切り詰め、ある種のライフスタイルを放棄することは非常に困難だ。特に経済が実際に上向きのときには、なおさらだ」とオックスフォード・エコノミクスの米国担当チーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は語る。
「実際こうした弱い『体幹』のせいで、経済の『腰』に少し負担がかかりやすくなり、いずれ痛めてしまう可能性がある」