最新記事

アメリカ経済

好況に沸く米国経済のパラドックス 景気支えるのは低所得層の貯蓄切り崩し

2018年7月31日(火)14時05分

賃金上昇なき労働市場

今年から来年にかけ、米雇用市場はますます活況を呈するとFRBは期待しているが、政策担当者は、賃金がそうした労働需給を反映していないことに困惑している。

労働統計局のデータによれば、医療、ファーストフード、建設などの巨大産業を含む米民間セクターの労働者8割を対象とする5月の平均時給は、前年に比べ1セント低下した。

ウェストバージニア州のハットンズビル矯正センターで医学研究所の運営に携わるジェニファー・デローダーさん(44)は、「ひどいものだ」と嘆く。彼女の時給はこの7年間で約2ドル上がって14ドルになった。

デローダーさんは、家賃や光熱費、教育ローンの支払いを支えるために、パートタイムの仕事を2つ掛け持ちしている。

それでも、収支を合わせるために週15ドルと決めている食品購入費を削ることもあり、くず鉄として売るために壊れた扇風機や車の部品、ランタンを集めることもある。今年に入って医療費が2000ドルかかったことで、貯蓄は底をついてしまった。

それにもかかわらず、すでに孫もいるデローダーさんは、最近、最高15万ドルの住宅ローンにサインした。「今は家賃を払っている。自分自身の家のためにお金を払う方がましだ」

昨年3月までの1年間で、低中所得層の時給上昇率は、わずか2%にとどまった。これは、最高所得層と最低所得層における約4%を下回る。一方で、彼らの支出は約8%も跳ね上がっている。

これは、家賃や処方薬、大学授業料など必要不可欠なコストが上昇しているだけでなく、外食費用など一部の裁量支出も増加していることを反映している。

財務状態の悪化を示す1つの兆候として、米国におけるクレジットカード債務不履行の深刻な増大が挙げられる。貧困世帯の多くは、一時しのぎの手段としてクレジットカードを利用している。

約8150億ドル規模のクレジットカード市場は、株式市場を混乱させるほどの大きさではないが、FRBが金融引き締め政策を続ける中で、こうした圧迫症状が波及する初期兆候であるかもしれない。

また、今年の第1・四半期に住宅ローンを除く家計債務のレバレッジが過去最高に達している。その背景には、自動車ローンも寄与しているが、この分野においても返済が滞る借り手が増えている。

経済的幸福に関するFRBの調査では、全般的に明るい状況が描かれる一方で、成人の4人に1人が、400ドルの緊急出費が必要になった場合でも支出できない可能性を懸念しており、また5人に1人が毎月の請求書の支払いに苦心していることを示している。

FRBが今月提出した半期議会報告書では、高リスク債務者による債務不履行の増大は「ストレスのポケット」を示していると指摘。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は先月、多くの米国民に経済的なセーフティネットが欠けている点は、依然懸念の種だとロイターに語った。「全体的な状況が大変よく堅調だとしても、この問題は引き続き経済の半分を脅かしている」

(翻訳:エァクレーレン)

Jonathan Spicer

[フィラデルフィア 23日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シャープ、26年3月期以降に特損149億円 亀山工

ワールド

中国、国防産業監督機関の元幹部を汚職で起訴

ワールド

「台湾独立」勢力は断固取り締まるべき、中国共産党幹

ビジネス

英バークレイズ、25年は12%増益、新たな業績目標
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中