好況に沸く米国経済のパラドックス 景気支えるのは低所得層の貯蓄切り崩し
賃金上昇なき労働市場
今年から来年にかけ、米雇用市場はますます活況を呈するとFRBは期待しているが、政策担当者は、賃金がそうした労働需給を反映していないことに困惑している。
労働統計局のデータによれば、医療、ファーストフード、建設などの巨大産業を含む米民間セクターの労働者8割を対象とする5月の平均時給は、前年に比べ1セント低下した。
ウェストバージニア州のハットンズビル矯正センターで医学研究所の運営に携わるジェニファー・デローダーさん(44)は、「ひどいものだ」と嘆く。彼女の時給はこの7年間で約2ドル上がって14ドルになった。
デローダーさんは、家賃や光熱費、教育ローンの支払いを支えるために、パートタイムの仕事を2つ掛け持ちしている。
それでも、収支を合わせるために週15ドルと決めている食品購入費を削ることもあり、くず鉄として売るために壊れた扇風機や車の部品、ランタンを集めることもある。今年に入って医療費が2000ドルかかったことで、貯蓄は底をついてしまった。
それにもかかわらず、すでに孫もいるデローダーさんは、最近、最高15万ドルの住宅ローンにサインした。「今は家賃を払っている。自分自身の家のためにお金を払う方がましだ」
昨年3月までの1年間で、低中所得層の時給上昇率は、わずか2%にとどまった。これは、最高所得層と最低所得層における約4%を下回る。一方で、彼らの支出は約8%も跳ね上がっている。
これは、家賃や処方薬、大学授業料など必要不可欠なコストが上昇しているだけでなく、外食費用など一部の裁量支出も増加していることを反映している。
財務状態の悪化を示す1つの兆候として、米国におけるクレジットカード債務不履行の深刻な増大が挙げられる。貧困世帯の多くは、一時しのぎの手段としてクレジットカードを利用している。
約8150億ドル規模のクレジットカード市場は、株式市場を混乱させるほどの大きさではないが、FRBが金融引き締め政策を続ける中で、こうした圧迫症状が波及する初期兆候であるかもしれない。
また、今年の第1・四半期に住宅ローンを除く家計債務のレバレッジが過去最高に達している。その背景には、自動車ローンも寄与しているが、この分野においても返済が滞る借り手が増えている。
経済的幸福に関するFRBの調査では、全般的に明るい状況が描かれる一方で、成人の4人に1人が、400ドルの緊急出費が必要になった場合でも支出できない可能性を懸念しており、また5人に1人が毎月の請求書の支払いに苦心していることを示している。
FRBが今月提出した半期議会報告書では、高リスク債務者による債務不履行の増大は「ストレスのポケット」を示していると指摘。
ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は先月、多くの米国民に経済的なセーフティネットが欠けている点は、依然懸念の種だとロイターに語った。「全体的な状況が大変よく堅調だとしても、この問題は引き続き経済の半分を脅かしている」
(翻訳:エァクレーレン)
[フィラデルフィア 23日 ロイター]
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