The Era of Dataism──データ資本主義の時代
大企業はスタートアップの敵から、最大の支援者となった
一昔前はスタートアップにとって大企業は打ち負かすべき敵であった。AppleにとってIBM、Amazonにとってウォルマートは敵であり、大企業にとってもスタートアップは脅威であった。しかしその戦は今、オープンイノベーションという御旗のもとに終戦を迎えた。むしろ大企業はスタートアップの最大の支援者となった。
大企業の無尽蔵な資金バックを得て、スタートアップはどんどん肥大化する。肥大化したスタートアップは無尽蔵に大企業の資金を吸収し、燃焼し、ひたすらにトップライン(流通総額、グロス売上)だけを追求する。結果、そのレールに乗った片手に余る一握りの「デカコーン」が全スタートアップ資金調達額の圧倒過半を独り占めする「Few takes almost all」現象が世界中で起きている。格差社会は個人単位のみで起きているのではない。企業単位でも格差は世界に蔓延しているのである。未上場企業も、上場企業も、である。
過剰流動性とスタートアップの共犯性
スタートアップの資金調達額は、株式市場の高低と完全に連動している。
ウォールストリートが良いときは、西海岸のテックスタートアップも栄える。逆も真。しかしそのアップ・ダウン・サイクルの中、この10年はほぼ一本調子で上げている。理由は何か。
過剰流動性である。
一目瞭然に、前回の景気の谷からまさに異次元のマネー世の中に大量に放出されている。
そしてこれに連動して、スタートアップの企業価値が急騰している。
イノベーションや技術進展は、確かに高い価値を世の中にもたらしている。しかしながらそれ以上に、余り過ぎたお金がスタートアップの株式の値段をインフレさせている要因のほうが遥かに大きいのである。
米国はいま、金融引き締めに入った。今のところはそれを吸収して引き続きブル市場であるが「まだはもうなり、もうはまだなり」相場の格言通り、これがいつ反転するかは最も賢い人ですら、誰にもわからない。
たった一つ分かることは、「備えあれば憂いなし」。備えに関してはちょうど10年前の2008年、世界最高峰VCのセコイアキャピタルが全ポートフォリオ企業に宛てたこのレターが、普遍的に有効ではなかろうか。
本記事は2018年6月14日に香港で開催されてたアジア・リーダーズ・サミットにおける講演内容のダイジェストです。講演で使用した全スライドはSlideShareに掲載されています。
[執筆者]
蛯原健(リブライトパートナーズ代表)
シンガポールを拠点に、アジアのインターネットスタートアップへのベンチャーキャピタル投資に従事している。
インターネット黎明期の1994年からJAFCOにてベンチャーキャピタルに従事、その後 上場および未上場ベンチャーの経営を経て、現在はアジアでスタートアップ投資に従事。講演依頼は、こちらまで。