最新記事

ベンチャー

The Era of Dataism──データ資本主義の時代

2018年6月25日(月)18時10分
蛯原 健(リブライトパートナーズ代表)

モビリティ革命

あらゆる産業がデジタル・トランスフォーメーション(ITによる再定義)している今日において、その中でもっともそれが急激かつ大規模に起きているのがモビリティ・インダストリーである。

自動運転やシェアリングとともに、EV(電気自動車)は世界のモビリティ産業に巨大な地殻変動を起こしているが、その勝者はテスラではない。中国深圳にある、バークシャーハサウェイも投資するBYD社である。

ebihara3.jpg

またその駆動源たるリチウムイオンバッテリーを最もたくさん売っている会社もまた、もはや日本のパナソニックではない。中国CATL社である。

ebihara4.jpg

何故モビリティ革命において中国がこれほど強いのか。 理由は「リープフロッグ―段階飛ばし―」である。

パラダイムシフト期における競争では、持てる者より持たざる者が有利である。サンクコストが小さい、切るべき雇用も無い、既得権益も無い、守るべき法律すらない。新パラダイムへの移行コストがはるかに小さいのである。

世界に通用するレベルの自動車産業を持たなかった中国は国を挙げて一気にEVシフト(リープフロッグ)を決め、補助金を出し、優遇税制をしき、ガソリン車を締め上げ、その間に保護貿易で外資をシャットアウトして自国にEV・バッテリ産業を育成した。そして勝ち筋が見えたところでついこの前ようやく外資開放を決定した。既に「勝負あった」というタイミングになってからである。

この中国のビジネスモデルに地球上で勝てるものはもはやいないだろう。ピーター・ティールよろしく「アンフェア・アドバンテッジ」による非競争戦略である。同じ事が他のあらゆる産業分野で起きている。

世界のテクノロジー倉庫、インド

このように世界に中国旋風が吹き荒れている一方で、インドの風もなかなかに強い事は実態より世間の評価が低い。なぜか。インドが米国経済の一部として完全にビルドインされていて外目には区別がつかないからである。

具体的に説明しよう。シリコンバレー人口のざっと3割はインド人である。米国の移民一世が創業者のユニコーン企業の中で最も多いのはインド人企業である(Internet Trend Report 2018)。世界時価総額トップ5うち2社はインド人CEOが経営している(Microsoft サティアナデラ、Google スンダルピチャイ)。世界中のテックを札束で買い漁っている世界最大のファンド、ソフトバンク・ビジョン・ファンドのトップもラジーブ・ミスラというインド人である。

世界で最も売れているAIの脳みそ、エヌビディアのGPUの設計はインドで行われている。世界最大の通信機器メーカー、シスコの最新機種もインドで設計開発されている。他にいくらでも裏付けるデータがある。米国をけん引するテックエコノミーは、インドというテクノロジー人材輩出装置によって駆動しているのである。

またインド企業であるにも関わらず自らを「シリコンバレースタートアップ」と呼ぶ会社も多い。そのほうがお客にも投資家にもウケが良いからに過ぎない。実態はインド・バンガロール企業である。

ebihara5.jpg

以上の通り、我々が生きる現代世界を支配しているテクノロジーを見るときに、中国同様にインドを押さえない限り本当の世界を見ているとは言えないのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中