The Era of Dataism──データ資本主義の時代
モビリティ革命
あらゆる産業がデジタル・トランスフォーメーション(ITによる再定義)している今日において、その中でもっともそれが急激かつ大規模に起きているのがモビリティ・インダストリーである。
自動運転やシェアリングとともに、EV(電気自動車)は世界のモビリティ産業に巨大な地殻変動を起こしているが、その勝者はテスラではない。中国深圳にある、バークシャーハサウェイも投資するBYD社である。
またその駆動源たるリチウムイオンバッテリーを最もたくさん売っている会社もまた、もはや日本のパナソニックではない。中国CATL社である。
何故モビリティ革命において中国がこれほど強いのか。 理由は「リープフロッグ―段階飛ばし―」である。
パラダイムシフト期における競争では、持てる者より持たざる者が有利である。サンクコストが小さい、切るべき雇用も無い、既得権益も無い、守るべき法律すらない。新パラダイムへの移行コストがはるかに小さいのである。
世界に通用するレベルの自動車産業を持たなかった中国は国を挙げて一気にEVシフト(リープフロッグ)を決め、補助金を出し、優遇税制をしき、ガソリン車を締め上げ、その間に保護貿易で外資をシャットアウトして自国にEV・バッテリ産業を育成した。そして勝ち筋が見えたところでついこの前ようやく外資開放を決定した。既に「勝負あった」というタイミングになってからである。
この中国のビジネスモデルに地球上で勝てるものはもはやいないだろう。ピーター・ティールよろしく「アンフェア・アドバンテッジ」による非競争戦略である。同じ事が他のあらゆる産業分野で起きている。
世界のテクノロジー倉庫、インド
このように世界に中国旋風が吹き荒れている一方で、インドの風もなかなかに強い事は実態より世間の評価が低い。なぜか。インドが米国経済の一部として完全にビルドインされていて外目には区別がつかないからである。
具体的に説明しよう。シリコンバレー人口のざっと3割はインド人である。米国の移民一世が創業者のユニコーン企業の中で最も多いのはインド人企業である(Internet Trend Report 2018)。世界時価総額トップ5うち2社はインド人CEOが経営している(Microsoft サティアナデラ、Google スンダルピチャイ)。世界中のテックを札束で買い漁っている世界最大のファンド、ソフトバンク・ビジョン・ファンドのトップもラジーブ・ミスラというインド人である。
世界で最も売れているAIの脳みそ、エヌビディアのGPUの設計はインドで行われている。世界最大の通信機器メーカー、シスコの最新機種もインドで設計開発されている。他にいくらでも裏付けるデータがある。米国をけん引するテックエコノミーは、インドというテクノロジー人材輩出装置によって駆動しているのである。
またインド企業であるにも関わらず自らを「シリコンバレースタートアップ」と呼ぶ会社も多い。そのほうがお客にも投資家にもウケが良いからに過ぎない。実態はインド・バンガロール企業である。
以上の通り、我々が生きる現代世界を支配しているテクノロジーを見るときに、中国同様にインドを押さえない限り本当の世界を見ているとは言えないのである。