最新記事

移民

不法移民の子どもは薬漬けで大人しくさせられていた?

2018年6月22日(金)19時03分
クリスティーナ・チャオ

親から引き離された不法移民の子にさらなる仕打ち?(写真は6月18日、アリゾナ州ノガレスのセンターに収容されている子供たち) Ross D. Franklin-REUTERS

<不法移民の親子引き離しが問題になっているアメリカで、移民の子供たちを大量の抗うつ剤などで大人しくさせていた疑いが浮上>

不法入国した親から子供を引き離して収容していることが非人道的とスキャンダルになっているアメリカで、収容施設に入れられた移民の子供たちが薬漬けにされているかもしれない──6月20日に明らかになった訴訟から、信じられないような疑いが浮上した。

問題の施設は、米テキサス州ヒューストン近郊にある。メキシコとの国境で親と引き離されたケースもある移民の子どもたちが、トラウマ(心的外傷)を受けないようにする強硬策として、当局から大量の向精神薬を強制的に飲まされていたという。

行動や精神に問題を抱える若者専門の治療施設、シャイロー治療センターに入れられた子どもは、どんな症状でもほぼ例外なく、親の同意を得ずに薬を投与されている、と主張するロサンゼルスのNPO、人権と憲法センターは、施設を管轄する米保健福祉省難民再定住室(ORR)を相手取り、4月16日に訴訟を起こした。

「施設の責任者から、君を大人しくさせるために注射すると言われた」──収容されていた子どもの一人は弁護士にこう語ったという。「職員2人に掴まれた状態で、医師に注射された。抵抗しても相手にされず、注射が終わるとベッドに放置された」

「シャイロー治療センターに入れられれば、ほぼ例外なく大量の薬を投与されることになる。もし親と引き離されて心が不安定になった子どもがいれば、向精神薬を投与されるはずだ」、と原告の代理人弁護士であるカルロス・オルギンは言った。

薬を飲まなければ施設から出られないと脅す

訴状によれば、薬を拒否した子どもは、体を押さえつけられて注射された。これはビタミン剤だよ、と言って子どもに信じ込ませる職員もいた。「いくつかの薬はビタミン剤だ、君は栄養をつける必要があるからね、と職員に言われた。2回くらい種類が変わった。どっちを飲んだ時も感覚がおかしくなった」、と言った子もいるという。

朝に9種類、晩に6種類もの異なる薬を飲まされた例もあり、その中には抗精神病薬、抗うつ剤、パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬なども含まれていた。子どもたちは職員から、薬を飲まなければ今後も収容されたままになる、と脅されたという。服用後、疲労感が襲ってきて歩けなくなる副作用があった、と話す子もいた。

裁判で原告側は、子どもが複数の向精神薬を同時に服用すれば深刻な症状を引き起こす恐れがある、と主張。薬が本当に必要な治療に使われず、逆に「飲む拘束衣」として悪用されるリスクを防ぐための監視体制の必要性を強調する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ氏の自動車関税、支持基盤の労働者

ビジネス

2025年度以降も現在の基本ポートフォリオ継続、国

ビジネス

TSMC、台湾で事業拡大継続 新工場は7000人の

ビジネス

午後3時のドルは149円付近に下落、米関税警戒続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中