最新記事

大麻解禁

マリファナ解禁したのに密売人から買うウルグアイの失敗

2018年6月14日(木)15時44分
ジェイソン・レモン

販売開始と同時に、首都モンテビデオのドラッグストアで5グラムを買ったユーザー Andres Stapff--REUTERS

<世界に先駆けて全面的に合法化したのに、供給が需要に追い付かない、薬局も売りたがらないなどの計算違いが>

南米の小国ウルグアイは2013年に世界で初めてマリファナの完全合法化に踏み切り、大きな注目を浴びた。だが生産から販売まで全面的に解禁し、当局の管理下に置いたにもかかわらず、麻薬密売組織がいまだに幅を利かせている。2017年からは薬局での販売も始まったが、合法マリファナは今も入手困難で、密売人から買うしかない。

「供給が需要に追いつかない」と、ウルグアイ国家薬物評議会のディエゴ・オリベラ会長は13日にAP通信に語った。「何とかしなければ」

オリベラの推定では、人口350万人のこの国のマリファナ消費量は年間約20〜25トンに及ぶ。

マリファナの購入は登録制で、認可された薬局で月40グラムまで買える。使用者は合法的なルートで買いたいのだが、現状ではそれが難しい。ウルグアイ全土にある薬局はおよそ1200店舗。そのうち認可を取得した薬局は14店舗にすぎない。

薬局が取得を渋るのは理由がある。マリファナは利鞘が少ない上、ストックを置けば強盗にあうリスクがある。さらに9・11同時多発テロ後に施行されたアメリカの愛国法が適用されるリスクもあると、米誌USニューズ&ワールド・レポートが報じている。

アメリカの反テロ法が怖い

米愛国法は国際テロ組織アルカイダなどテロや犯罪組織を取り締まる法律だが、国際金融を通じて麻薬の販売益を洗浄するマネーロンダリング(資金洗浄)も禁止している。ウルグアイの銀行の大半は米銀を介して国際的な取引を行っているため、ウルグアイの小さな薬局の銀行口座が凍結される可能性もゼロではない。

こうした事情が重なり、マリファナを販売する薬局は少なく、販売する場合も現金取引に限られる。

「マリファナを売るか、銀行口座を守るかの二者択一なら、大半の薬局は後者を選ぶ」と、人権団体ラテンアメリカ・ワシントン事務所の薬物政策専門家ジョン・ウォルシュは言う。

米連邦法では今も嗜好用・医療用ともにマリファナは全面的に禁止されている。ただし、全米の29州で医療用マリファナは解禁され、9州と首都ワシントンでは嗜好用も解禁されている。ジェフ・セッションズ米司法長官は、一部の州法がどうあれ、連邦レベルでは規制を緩和する考えはないと厳しい姿勢を示している。

こうしたなか、州法に基づいてマリフアナを使用しても、連邦法で裁かれることがないよう、米上院では超党派の議員立法の動きが進んでおり、コリー・ガードナー(コロラド州選出・共和党)、エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出・民主党)議員らが改正法案をとりまとめている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン副大統領、トランプ氏の「合理的行動」に期待

ワールド

フーシ派、日本郵船運航船の乗員解放 拿捕から1年2

ワールド

米との関係懸念せず、トランプ政権下でも交流継続=南

ワールド

JPモルガンCEO、マスク氏を支持 「われわれのア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中