新しい「窒素ガス」による死刑は完璧か? 薬物注射やガス室に比べるとマシだが欠陥だらけ
電気椅子の場合、死刑囚の体が燃え上がったり、何度も電気ショックを与えなければならなかったりした事例がある。ガス室は12の州が人道的な方法として採用しているが、失敗率が5%に上り、死刑囚が長い間もがき苦しんだり、痙攣を起こした例が報告されている。
死刑執行方法として最も一般的な薬物注射は、失敗率がほかのどの方法よりも高く、7%超になる。静脈に何度か注射をする必要があるのだが、とくに死刑囚が麻薬常用者や慢性疾患の患者のように何度も注射を繰り返して血管が硬くなっている場合、静脈を見つけるのは極めて難しい。
今年アラバマ州で行われた例では、医師が最後は男性死刑囚の鼠径部に注射針を刺して膀胱を傷つけたあげく、死刑執行期限の午前0時になってしまい中断された。「死んだほうがましな」激痛だったと、この死刑囚は医師に語ったという。
加えて近年は多くの製薬会社が、医療用の薬物が死刑執行に使われているというイメージを嫌がり、自社製品が刑務所に回らないよう流通を規制し始めている。薬物注射による死刑執行は物理的に難しくなってきているのだ。
実用性に多くの疑問
窒素ガスによる処刑は実行可能なのかについても、多くの疑問が残っている。たとえば、もし死刑囚の顔面を密着性の高いマスクで覆えば、呼吸ができず苦しくならないか。マスクで顔面を覆っても、窒素ガスが漏れて効かない可能性はないのか。部屋全体を、高純度の窒素ガスで充満させる必要があるのだろうか。マスクや部屋の空気に微量の酸素が残っていた場合、死ぬまで時間がかかるか失敗するかして、結果的に死刑囚が昏睡状態や脳損傷に陥る恐れはないか。
しかも、窒素ガスの医学的な品質に関する規制がないため、死刑執行用に検査をする場合でも品質管理をどう徹底したらいいかわからない。もし汚染されたガスだったらどうなるのか。窒素ガスメーカーは製薬会社と違い、死刑用とわかっても供給し続けてくれるだろうか。
最も重要なのは、窒素ガスを使った処刑が、合衆国憲法の禁じる「残酷で異常な刑罰」に相当しないかどうかだ。
人は普段、生命維持に必要な量の酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出して呼吸する。酸欠の経験者はみな、ひどい苦痛だったと言う。だが窒素ガス使用を支持する人々に言わせれば、苦痛は酸欠のせい(いわゆる酸素欠乏症)ではなく二酸化炭素の蓄積のせいだという。窒素ガスを吸う間も二酸化炭素を吐き出すことは可能なのだから、死刑囚が酸欠で苦しむはずはない、という。