最新記事
北朝鮮

北朝鮮外交官、肝臓癌で治療費が足りずに死亡......金正恩は贅沢三昧

2018年6月5日(火)11時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮外交官の窮状をよそに金正恩は国内で贅沢三昧 KCNA-REUTERS

米紙ワシントン・ポストが3日までに報じたところでは、12日にシンガポールで開催される米朝首脳会談と関連し、金正恩党委員長ら北朝鮮側の現地宿泊費を誰が、どのように負担するかが難題となっているという。

同紙によると、北朝鮮側は超高級ホテル「フラトンホテル」での宿泊を希望しており、金正恩氏が泊まると見られるスイートルームは1泊6千ドル(約66万円)以上もする。外貨不足の深刻な同国は関係国による支払いを要請しているとのことだが、経済制裁との絡みもあって、簡単には結論が出ないようだ。

とは言っても、この程度の問題は放っておいてもいずれ結論が出る。それよりも、このニュースに接して思い浮かんだのが、海外に駐在する北朝鮮外交官たちの困窮ぶりだ。

韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏は、韓国で出版した自叙伝『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)の中で、友人であるキム・チュングク元駐イタリア大使の死について、次のように言及している。

「2016年1月、イタリア駐在の北朝鮮大使だったキム・チュングクが、現地で死亡した。私の最も親しい友人だった。肝臓がんのため何カ月か病床に伏し、苦痛の中でこの世を去った。韓国メディアは当時、大使がなぜ、健康診断も受けず、末期がんになって病院へ行くのかと不思議がった。本人が健康に気を遣わなかったせいもあろうが、たぶん財政的な苦しさのために病院へ行けなかったのだろう」

北朝鮮政府は、外交官の医療費を負担しないため、ただでさえ外貨不足に苦しむ外交官たちは、病気になってもろくに治療すら受けられないということだ。

その一方、金正恩氏は国内で高級ベンツをぶっ飛ばすなど贅沢三昧をしてきた。

参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路

その裏には、駐在国でひたすら外貨稼ぎに精を出してきた一部の外交官たちがいる。中には、違法薬物や金塊、酒類の密輸に手を染めていたケースもある。そのある部分は本人の蓄財のためかもしれないが、大部分は国家の要請に応えるためのものだ。

そして、そのように稼ぎ出された外貨によって「金正恩秘密資金」が形成され、核・ミサイル開発の軍資金となり、あるいは金正恩ファミリーの優雅な暮らしを支えてきたのだ。

関連記事:金正恩氏が大金をつぎ込む「喜び組」の過激アンダーウェア

金正恩氏は、核兵器開発を停止して経済発展に力を入れる方針を掲げているが、外交官の医療費すら賄ってこなかった現状から脱するだけでも、相当な努力が必要だ。仮に米朝首脳会談がうまく行ったとしても、北朝鮮の行くべき道は、果てしなく長いように思われる。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中