米朝首脳会談、1972年のニクソン訪中と外交的意義はどう違う?
6月12日、トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と行った史上初の米朝首脳会談は、1972年のニクソン大統領による初の中国訪問を彷彿させるかもしれない。写真はシンガポールで記者会見に臨むトランプ大統領(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)
トランプ米大統領が12日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と行った史上初の米朝首脳会談は、1972年のニクソン大統領による初の中国訪問を彷彿させるかもしれない。しかし今回、北朝鮮から非核化に向けた具体的な約束を何一つ獲得できなかった様相から、この二つは外交的意義の点では似て非なる政治イベントと言えそうだ。
トランプ氏は正恩氏との会談の成功を早速広言したとはいえ、2人が署名した「シンガポール共同声明」はほとんどが、北朝鮮が歴代の米政権に対して守れなかった約束の焼き直しにすぎない、と専門家は断定した。
そうなるとトランプ氏が国際社会もしくは米国内で政治的な追い風を受け続けるには、次回以降の北朝鮮との交渉で、同氏が「非常に迅速に始まる」と大見得を切った非核化プロセスが、目に見えて進むことを示す必要があるだろう。
トランプ氏は12日の会談で北朝鮮の長距離核ミサイルから米国を安全にするという面で何か成果を得たわけではないが、今後国内で北朝鮮を外交交渉の席に引っ張り出したことが、「米国第一」政策の一環として国土を守る仕事をしている証拠だとアピールする公算が大きい。
与党の共和党も11月の中間選挙をにらみ、有権者に首脳会談成功を売り込むとともに、このまま同党に多数派を維持する方が得策だと訴える可能性がある。
それでも多くの専門家は、正恩氏が核武装を放棄するのは疑わしいと考えている。
米シンクタンク「ファウンデーション・フォー・ディフェンス・オブ・デモクラシーズ」のアンソニー・ルギエロ上席研究員は「残念ながら、正恩氏が核武装を放棄するという戦略的決断を下したかどうかは不明だし、今後の交渉が非核化という最終目標につながるかも分からない」と語り、今回の動きは目立った進展がなかった10年前の交渉の再現を思わせるとの見方を示した。
なし崩しの懸念
トランプ氏と正恩氏が約束した朝鮮半島の「完全な非核化」については、北朝鮮側が米政府の核武装解除の定義を受け入れたわけではないとの解釈が広がっている。
かつて米政府当局者として北朝鮮との外交交渉を担当したエバンス・リビア氏は「共同声明には重要な要素がほぼゼロで、新鮮味にも乏しい。願望込みの目標が列挙されている。これは北朝鮮にとって勝利で、何の意義も生み出さなかったと見受けられる」と手厳しい。