欧州リーダーは欧州企業と核合意のピンチを救えるか
英独仏の首脳はトランプ流にストップをかける意思を鮮明にしている Stoyan Nenov-REUTERS
<トランプの核合意離脱と制裁措置発動により、欧州企業がイラン撤退に追い込まれる?>
トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を表明したことの主な影響は、これまでのところ、原油相場の上昇、中国の国有エネルギー企業へのチャンス到来、そしてヨーロッパとイランの結束強化だ。
EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表と英独仏の外相は5月15日、イランのザリフ外相と会い、アメリカ抜きでの核合意維持に向けた方策を話し合った。「ある人物が協議の場で使った表現を借りれば、私たちは皆、親戚が病院の集中治療室に入っているような気持ちでいる」と、モゲリーニは言う。
「患者」の容体は、あまり良好に見えない。アメリカ抜きでの核合意を維持するためには、ヨーロッパ企業がイランと引き続きビジネスを行えるようにする必要がある。しかし、それらの企業がアメリカともビジネスを行っていれば、米政府による制裁の対象になる。イランと取引をする企業は、アメリカの金融システムから締め出される可能性もある。
デンマークの海運大手マースクとドイツの保険大手アリアンツは既に、イランから撤退する方針を示している。フランスのエネルギー大手トタルも、アメリカの制裁から除外されない限り、秋までにイランでの大規模天然ガス開発プロジェクトから手を引く意向を明らかにした。
イランの南パルスガス田の権益の50.1%を保有しているトタルが撤退すれば、その権益の大半は第2位の出資者である中国国有の中国石油天然気集団(CNPC)のものになる。トタルはこの計画に莫大な資金投資を予定していたが、天然ガスの生産が始まる前にその権益を失い、しかも一切の補償も受けられない。中国側にとっては、これほどおいしい話はない。
EUが用意する「切り札」
ヨーロッパ企業が続々とイランから撤退する事態になれば、イランは核合意を守ることに経済的なメリットを見いだせなくなり、核合意を破棄するだろう。それを避けるために、ユンケル欧州委員会委員長は、「ブロッキング規則」を発動する意向を明らかにした。簡単に言えば、ヨーロッパ企業がアメリカの制裁に従うことを禁じる規定だ。
しかし、理想的な対抗策とはとうてい言えない。同規則は96年に制定以来まだ発動されたことがなく、執行メカニズムははっきりしない。それに執行されれば、ヨーロッパ企業はEUの制裁を受けるか、アメリカの制裁を受けるかという難しい選択を強いられる。大半の企業は、そもそもイランに関わることを避けるだろう。