トランプ政権の核合意離脱が引き起こすイラン内部の権力闘争
絵に描いた餅
トランプ大統領の決定で、イランの複雑な権力構造内部での闘争が再燃する下地が整ったと、イラン政府関係者は話す。欧米への歩み寄りを見せるロウハニ大統領の力を制限しようとする強硬派が、勢いを増す可能性があるという。
「もしトランプ氏が合意から離脱し、イランの石油輸出をまひさせるような制裁を科すならば、イランには強硬な反応を示す以外の選択肢がなくなる」と、あるイラン政府の高官はトランプ氏の決断発表を前にこう話した。
イランの情報機関関係者は、圧力を受ければ、同国はより強硬な中東政策を取る可能性があると示唆した。
イランには、西側が「安定を損なう」とみなす行動を取る戦略的理由がある。
1980─88年のイラン・イラク戦争で、イラク側のミサイル攻撃によりイラン都市部が大きな被害を被ったことを踏まえ、イランのミサイル開発は、一定の抑止効果のほかに、対空防衛力を欠いた状態に再び陥らないことを目標にしている。
シリアやイラク、レバノンやイエメンにおける活動もまた、イランの力を投影させたい欲求を反映したもので、地域の覇権を争うサウジアラビアとの抗争の一環という側面も持ち合わせている。
イラン政府に、このような政策を手放させることはもちろん、うまくいった場合でも意味ある形で抑制させることは難しいだろう。
「絵に描いた餅とまでは言わないが、現段階では達成不可能に見える。米国とイランの双方とも、その準備ができていないからだ」と、ある欧州の外交官は話した。
イランが交渉にのる理由
イランが最終的に交渉に応じるとしたら、それはどんな理由からだろうか。
「ビル・クリントン(元米大統領)が言ったように、『経済に決まってる』」と、別の欧州外交官は述べた。
この外交官によると、イランでは、イスラム共和国を守るための最善の手段について、経済の発展だと考える人と、内政と外交での強硬姿勢だと考える人の間で、急速に意見の対立が先鋭化しているという。
「欧州からのメッセージは、われわれは政権転覆を目指していないということだ。世界規模の合意は、イランの飛躍的変革の助けとなると考えている」
さらには、最終的にイランに地域の覇権を手放すよう説得できることになるかもしれない。
「確かに野心的だが、(核合意が成立した)2015年7月以降、インフラや文化協力、ビジネス、教育や交通の面で、われわれが毎日のように付き合ってきた人たちは、地域の覇権ではなく、経済の近代化によって発展を実感している人たちだ」と、この外交官は付け加えた。
また、「これからわれわれが突入する局面によって、イランの制度に大きな圧力が加わることもあり得る。すでに、(マクロン氏の)新合意の提案は、イランの利益になるものだと彼らには伝えている」