最新記事

中東

トランプ政権の核合意離脱が引き起こすイラン内部の権力闘争

2018年5月12日(土)18時53分


絵に描いた餅

トランプ大統領の決定で、イランの複雑な権力構造内部での闘争が再燃する下地が整ったと、イラン政府関係者は話す。欧米への歩み寄りを見せるロウハニ大統領の力を制限しようとする強硬派が、勢いを増す可能性があるという。

「もしトランプ氏が合意から離脱し、イランの石油輸出をまひさせるような制裁を科すならば、イランには強硬な反応を示す以外の選択肢がなくなる」と、あるイラン政府の高官はトランプ氏の決断発表を前にこう話した。

イランの情報機関関係者は、圧力を受ければ、同国はより強硬な中東政策を取る可能性があると示唆した。

イランには、西側が「安定を損なう」とみなす行動を取る戦略的理由がある。

1980─88年のイラン・イラク戦争で、イラク側のミサイル攻撃によりイラン都市部が大きな被害を被ったことを踏まえ、イランのミサイル開発は、一定の抑止効果のほかに、対空防衛力を欠いた状態に再び陥らないことを目標にしている。

シリアやイラク、レバノンやイエメンにおける活動もまた、イランの力を投影させたい欲求を反映したもので、地域の覇権を争うサウジアラビアとの抗争の一環という側面も持ち合わせている。

イラン政府に、このような政策を手放させることはもちろん、うまくいった場合でも意味ある形で抑制させることは難しいだろう。

「絵に描いた餅とまでは言わないが、現段階では達成不可能に見える。米国とイランの双方とも、その準備ができていないからだ」と、ある欧州の外交官は話した。

イランが交渉にのる理由

イランが最終的に交渉に応じるとしたら、それはどんな理由からだろうか。

「ビル・クリントン(元米大統領)が言ったように、『経済に決まってる』」と、別の欧州外交官は述べた。

この外交官によると、イランでは、イスラム共和国を守るための最善の手段について、経済の発展だと考える人と、内政と外交での強硬姿勢だと考える人の間で、急速に意見の対立が先鋭化しているという。

「欧州からのメッセージは、われわれは政権転覆を目指していないということだ。世界規模の合意は、イランの飛躍的変革の助けとなると考えている」

さらには、最終的にイランに地域の覇権を手放すよう説得できることになるかもしれない。

「確かに野心的だが、(核合意が成立した)2015年7月以降、インフラや文化協力、ビジネス、教育や交通の面で、われわれが毎日のように付き合ってきた人たちは、地域の覇権ではなく、経済の近代化によって発展を実感している人たちだ」と、この外交官は付け加えた。

また、「これからわれわれが突入する局面によって、イランの制度に大きな圧力が加わることもあり得る。すでに、(マクロン氏の)新合意の提案は、イランの利益になるものだと彼らには伝えている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独CPI、2月速報はEU基準で+2.8% 前月と変

ワールド

中国主席がロシア高官と会談、国際問題での協調強化を

ビジネス

ビットコイン8万ドル割れ、週間で2年超ぶり大幅安 

ワールド

ロシア、大統領と親密な聖職者暗殺計画で2人拘束 ウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 6
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 7
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 8
    老化は生まれる前から始まっていた...「スーパーエイ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    令和コメ騒動、日本の家庭で日本米が食べられなくな…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中