シリア化学兵器使用疑惑事件と米英仏の攻撃をめぐる「謎」
事態悪化を回避しようとする攻撃
今回の攻撃は、化学兵器使用に象徴されるアサド政権の非道を黙認しないとの意志によって正当化された。だが、それによって政権の動きを封じることなどできるはずもなかった。理由は簡単だ。攻撃があらゆる意味でヴィジョンを欠き、事態悪化を回避しようとするものだったからだ。
この事実は、ロシアやアサド政権のプロパガンダではなく、米英仏政府の言動などから明らかだ。ジェームズ・マティス米国防長官は作戦実施直後の記者会見で、攻撃が「現時点で1回限り」と述べ、軍事バランスを変化させるような大規模且つ中長期の介入は想定していないことを確認した。ジョセフ・ダンフォード米軍統合参謀本部議長も「ロシア軍の巻き添えが出ないよう攻撃目標を精査した」と述べた。米国防総省にいたっては「二次被害を回避するため、化学兵器は破壊しなかった」と言い切った。
メディアでも、UAEの衛星テレビ局アラビーヤが15日、複数の米政府高官の話として、ロシアだけでなく、イランの拠点も標的から外されたと伝えた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌も、米主導の有志連合が占領するタンフ国境通行所(ヒムス県)一帯で活動する反体制派が、空爆に乗じてアサド政権を攻撃した場合、有志連合の支援は打ち切られる旨、事前(そして事後)通告されていたと報じた。
事態悪化を避ける慎重な攻撃であれば、アサド政権に化学兵器の再使用を断念させることも、ロシアにシリア支援策を再考させることもできるはずない。にもかかわらず、攻撃が敢行されたことは"謎"としか言いようがない。
塩素ガス使用疑惑事件をめぐる"謎"
"謎"というと、攻撃の効果もさることながら、発端となった7日の塩素ガス使用疑惑事件も不可解だ。備忘のため、事件をめぐる幾つかの"謎"に言及しておきたい。
最初の"謎"は、塩素ガスが実際に使用されたのか、使用された場合、それは誰によるのかという問いにかかわる。