最新記事

シリア情勢

中途半端だったシリアへのミサイル攻撃

2018年4月16日(月)18時45分
コラム・リンチ、エリアス・グロル、ロビー・グレイマー

トランプは14日朝、米英仏が共同で行ったミサイル攻撃は「完璧に遂行された」と語り、「任務は完了だ!」とツイートした。

攻撃では100発を超える巡航ミサイルが発射された。シリア当局とロシアが被害状況の調査を進める中、ある米政府高官は「(ミサイル攻撃の)主目的はシリアの化学兵器プログラム(の攻撃能力)を弱めることであり、成功を収めたと考えている」と14日、述べた。

もっともアサド政権の化学兵器による攻撃能力がゼロになったわけではない点は、複数の米高官が認めるところだ。ケネス・マッケンジー統合参謀本部事務局長は14日記者団に対し、攻撃はシリアの化学兵器関連施設の「心臓部」を叩き、数年分、後退させたと述べた。

その一方でマッケンジーは、化学兵器製造拠点の一部は残っていると認めた。「将来にわたってシリア政府の化学兵器攻撃が不可能になったと言うつもりはない」

化学攻撃に踏み切ったアサドの論理

アメリカとフランスの両国政府によれば、ダマスカス近郊のドウマでは4月7日、シリア政府軍のヘリコプターが塩素ガスを含む爆発物を投下し、女性や子供を含む50人近くが死亡、数百人が負傷した。ドウマはこの地域における反政府勢力の最後の拠点で、爆発物からはサリンの痕跡も見つかったとされる。

この攻撃を受けてトランプ大統領は、シリア政府とシリア政府を支援するロシアとイランに対し、「大きな代償を払うことになる」と警告するとともに、シリアへの直接攻撃を行うと言明した。トランプは1年前の4月6日にも、シリア政府が北西部ハーンシャイフーンで神経ガスを使ったことへの報復として空爆を命じている。

今回のミサイル攻撃に続きフランス政府とアメリカ政府はそれぞれ、ドウマへの化学兵器攻撃を行ったのはシリア政府だと結論づける詳細な報告書を発表した。

フランス政府の報告書によれば、化学兵器攻撃はこの地域の支配回復を目指したシリア政府軍による数カ月にわたる攻勢の総仕上げだった。

いったんは降伏を受け入れた反体制派との合意が破れた後、シリア政府は5500人の戦闘員が残るドウマへの攻勢を強めるため化学兵器の使用を決めたという。

「その結果、4月6日以降にシリア政府はロシア軍の支援を受け、当該地域への激しい爆撃を再開した」とフランスの報告書には書かれている。「こうした背景があってシリア政府が化学兵器使用に踏み切ったことは、軍事的観点からも戦略的観点からも理解しうる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中