「これでトランプ完敗」先手を打った金正恩と習近平の思惑
ドタキャンが最も賢明な手?
習に先を越されて、トランプのエゴは大いに傷ついたはずだ。核兵器を手にした独裁者と初めて会談した世界のリーダーという栄誉(怪しげな栄誉ではあるが)を受け損なったからだ。
だが、問題はそれだけではない。核放棄の道筋で北朝鮮から実質的な譲歩を取り付けることはもともと困難だったが、金が習の後ろ盾を得た今はほとんど絶望的になった。
さらに厄介なことに、トランプは国務長官と国家安全保障担当の補佐官の首をすげ替え、外交的解決に懐疑的で、北朝鮮とイランに対する軍事行動を主張した経歴を持つ2人のタカ派を政権に迎えた。
金が中国を味方に付ける一方で、アメリカの国家安全保障チームがタカ派主導になった今、米朝首脳会談は失敗を運命付けられたようなものだ。強気になった金から譲歩を引き出すには、より多くのアメを与えねばならない。だがトランプがタカ派のアドバイザーに知恵付けされて会談に臨めば、金が到底受け入れないような条件を付けるだろう。交渉が決裂するのは火を見るよりも明らかだ。
ただ金と握手して、中身のない共同声明を出すだけでは、いくら虚勢を張っても、トランプは外交に無知なおバカにしか見えないだろう。大胆な外交上の賭けで歴史に名を刻むどころか、戦略的意味合いを考えず、中国の出方も予想せずに、したたかな独裁者との会談を即決した軽率な大統領として後世の笑いものになるのがオチだ。
金との電撃会談で習に先を越された今、世界はアメリカの出方を見守っているが、この状況でトランプが打てる手は少ない。金との会談を土壇場で中止するのが最も賢明かもしれない。
<ニューズウィーク日本版4月10日発売号(2018年4月17日号)は「金正恩の頭の中」特集。「訪中できてラッキー」「統一はあくまで我々中心でやる」「この勝負、トランプの負けだ」......。米朝会談を控える北朝鮮の懸念と勝算を、さまざまな角度から分析。急速な融和ムードはすべて金正恩の計算通りなのか? この記事は特集より>