シリアの塩素ガス使用疑惑は、欧米諸国の無力を再確認させる
欧米諸国の消極姿勢は、シリア政府やロシアの「蛮行」に構っている余裕がないためだとも言える。イスラーム国に対する「テロとの戦い」を行うとして、介入を本格化させたこれらの国は、2017年末にイスラーム国が事実上壊滅したことで、シリアで得た利権を維持するために腐心しているのだ。
米国が主導する有志連合は、ロジャヴァを全面支援し、イスラーム国との戦いを推し進め、シリア領内に複数の基地を建設、部隊を駐留させるようになった。だが、トルコは、ロジャヴァが増長することを嫌い、2018年1月に「オリーブの枝」作戦と称して、ロジャヴァの支配下にあったアレッポ県北東部のアフリーン郡に侵攻、「自由シリア軍」を名乗る武装集団とともに同地を占領した。トルコは現在、ユーフラテス川以西に残されたロジャヴァの拠点都市マンビジュ市に狙いを定め、欧米諸国に同地からの撤退を迫っている。
これに対して、米国とフランスは同市で新たな基地を建設するなどして対抗しようとしている。欧米諸国の利権を直接脅かしているのは、今やロシアでもシリア政府でもなく、NATO(北大西洋条約機構)における同盟国であるトルコなのだ。
加えて、トランプ大統領の言動は、欧米諸国のシリア政策を根本から揺るがしかねない。トランプ大統領は3月29日、「我々はすぐにシリアから出て行くだろう」と述べ、駐留米軍を撤退させる意思を表明した。この爆弾発言は、国務省や国防総省の反発を招き、ほどなく反故となった。だが、欧米諸国はシリア政策をめぐるこうした内憂への対応で手一杯で、シリア内戦への干渉の根拠だった人道、「テロとの戦い」、そして化学兵器使用者の懲罰は何の意味もなしていないのである。
今回の塩素ガス使用疑惑は、欧米諸国の無力を再確認させるものであり、それによって得をしたのは、シリア政府であることは紛れもない事実だ。
さらに過酷な反体制派の現実
ホワイト・ヘルメットとイスラーム軍の悲痛な訴えは、欧米諸国の無関心を露呈させただけではなかった。現実はさらに過酷だった。
イスラーム軍は4月8日、シリア・ロシア両軍の総攻撃を前に再び停戦に応じ、戦闘員と家族の退去、捕虜・人質の解放に応じるとの姿勢を示した。だが、今度はトルコが、2015年半ばに実質上占領したジャラーブルス市への戦闘員の受け入れを拒否するとイスラーム軍に通達したのだ。
イスラーム軍に与えられた「新天地」は、シャーム解放委員会が支配するイドリブ県北西部のザーウィヤ山一帯だった。トルコは、同地でのイスラーム軍とシャーム解放委員会の衝突を回避するための調整を行うとの意思を示したと言われている。だが、シャーム解放委員会は、東グータ地方での勢力争いでラフマーン軍団とともにイスラーム軍と反目してきた組織で、イスラーム軍の「安住」は何ら保証されていない。
イスラーム軍への冷遇は、アレッポ市東部や東グータ地方でのシリア軍の蛮行を非難し、欧米諸国に介入を呼びかけるアイコンとしての役割を果たしてきた子供たちのその後とは極めて対象的だ。バナーちゃん、カリームくん、ヌールちゃんとアラーちゃんの姉妹――彼らはその後家族や支援者とともにトルコに渡り、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の抱擁を受けることができた。だが、彼らを利用してきた反体制派はというと、今や誰にとっても無用の長物と化しているかのようである。
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