シリアの塩素ガス使用疑惑は、欧米諸国の無力を再確認させる
両陣営による非難の応酬は、これまでの化学兵器・塩素ガス使用疑惑事件と同じように、二つのストーリーを成立させた。
第1のストーリーは、反体制派や「市民」に屈服を強いる(ないしは根絶する)ため、シリア軍が塩素ガスを使用したというものだ。このストーリーにおいて、シリアやロシアの政府やメディアが、攻撃に先立って「反体制派は欧米諸国の介入を促すため、シリア軍による化学兵器使用の事実を捏造しようとしている」と繰り返してきたことは、犯行に向けた周到な準備とみなされた。また、ハーン・シャイフーン市での化学兵器使用疑惑事件と米軍によるミサイル攻撃から約1年後というタイミングについては、欧米諸国が実効的な対応策を講じられないであろうことを見越して、その無力を嘲笑するために「復讐した」などと解釈された。
第2のストーリーは、反体制派が劣勢を打開するために自作自演したというものだ。根拠は、圧倒的な優位に立つシリア軍が、欧米諸国の干渉を招きかねない塩素ガス使用に踏み切るはずないというものだった。また、退去を続ける住民を「人間の盾」として繋ぎ止められなくなった反体制派が、彼らを「処分」することで、国際社会から支持と同情を得ようとしたとの極論も散見された。事件発生のタイミングについても、ハーン・シャイフーン市での一件から1年を迎え、欧米諸国でシリア情勢への関心が高まることに合わせたものだと解釈された。
シリアで得た利権維持に腐心する欧米諸国
真実は一つしかない。だが、それに歴史的通説とするのは、勝者であるロシアやシリア政府の論理と、反体制派の悲痛な声を真摯に受け止めることを期待されていた当事者である欧米諸国の対応だ。
事件発生を受け、ドナルド・トランプ米大統領は、シリア政府、そしてロシア、イランが「大きな代償」を払うだろうと脅迫、ホワイト・ハウスのトーマス・ボサート国土安全保障対テロ担当補佐官も「ミサイル攻撃を行う可能性を排除しない」と強気の姿勢を示した。
だが、シリア軍による化学兵器・塩素ガス使用疑惑が今年に入って何度も取りざたされてきたにもかかわらず、対抗措置が「検討中」であり続けたことは、米国のやる気のなさを示していた。それは、化学兵器使用をレッド・ラインと位置づけ、軍事介入を示唆しておきながら、攻撃に踏み切らなかったバラク・オバマ前政権と何ら変わらなかった。