訪中から始まる北朝鮮の米中離間工作
トランプが金との首脳会談に応じる意向を明らかにしたことで、金は中国との駆け引きにも勝利したことになると、ユンは指摘する。「金正恩にすれば、自ら中国に出向くのも気にならないほどの戦略的な勝利だった」
2017年の軍事的な成果と2018年の外交的な成功を経て、金は東アジアの各国首脳に対し「自分を独裁者から権力を受け継いだ若造ではなく、同等の指導者として扱うよう求めている」と、ワシントンのシンクタンク「ウィルソン・センター」の研究員ジーン・リーは言う。
「北朝鮮の若き指導者・金正恩が世界の舞台に飛び出す劇的な場面を、われわれは目の当たりにしている」と、リーは言う。「北朝鮮は『分断と征服』というゲームの巧者。なかでも金は、韓国、アメリカ、中国などの主要プレーヤーを動かすことに長けている」
一方、トランプは3月28日のツイートで、「金正恩委員長は国民と人道のため、正しいことを行う十分な可能性がある」と一定の期待を示しながらも、「最大限の制裁と圧力は何としても続けなければならない」とクギを刺した。
金の本音はどこにあるのか。北朝鮮の国営メディアの報道を慎重に分析すると、北朝鮮は以前から自国の兵器は自衛用だと主張し、条件次第では核兵器などの開発を止めてもいいとさえほのめかしていた。
核開発問題がかすむ?
ただしその条件には、少なくとも米朝関係の正常化や経済制裁の解除、半世紀以上に渡って停戦状態にある朝鮮戦争に終止符を打つ平和条約の締結などが含まれるだろうと、専門家らは指摘する。
もっとも、国際社会を舞台にした金の危険なチェスゲームによって、核開発問題は米中の対立関係というもっと大きな影に覆われてしまうかもしれない。
金は人気取りも巧みな指導者だ。国内の視察や訪中の際に夫人の李雪主(リ・ソルジュ)を伴って現われるのは金が初めてだし、2月のピョンチャン冬季五輪を機に金王朝の一員として初めて訪韓した妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長はアイドル並みの注目を浴びた。
今後は世界の2大巨頭であるトランプと習の間で注意深くバランスを取っていかなければならない金は、そうした魅力を駆使しながら米中の利害対立を巧みに利用しようとするだろう。
「米中対立が先鋭化すれば、両国は北朝鮮を味方につけようとするかもしれない」と、ユンは言う。「そうなれば、非核化は自ずと後回しになるだろう」