最新記事

北朝鮮情勢

訪中から始まる北朝鮮の米中離間工作

2018年3月30日(金)20時40分
トム・オコーナー

金正恩はトランプに直接対話を呼びかけることで習近平とも会うことに成功した? Carlos Barria-REUTERS

<アメリカに直接対話を呼び掛けるという歴史的離れ業をやってのけた金正恩なら、米中対立を利用することもできるだろう>

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が3月25日から4日間に渡って秘密裏に中国を訪問した。金の帰国後、両国メディアは金の初の中国公式訪問を華々しく伝えた。

北朝鮮の国営メディアはこの訪中を、長年の同盟国である中国との冷え切った関係を改善するためと示唆している。だが専門家らによれば、北の狙いはそれだけでなく、今回の訪中はアメリカと中国を対峙させるために計算された動きだったという。

世界でも最も厳格な独裁体制の1つである北朝鮮において、金はさまざまな面で先陣を切って来た。冷戦時代さながらの米朝対立が続くなか、彼は2011年、父・金正日の死去に伴い若くして最高指導者に就任。大陸間弾道ミサイル(ICBM)や核兵器の開発を指揮し、アメリカの攻撃に対して核抑止力を持つと宣言するまでに至った。

その一方で金は、祖父・金日成や父・金正日と同様にアメリカと「非難の応酬」を続け、国際社会による経済制裁や軍事行動の脅しに抵抗し続けてきた。

大国と対等の立場に

北朝鮮が韓国との南北対話に応じ、緊張緩和に向けて動いたのは、これが初めてではない。それでも、北朝鮮がドナルド・トランプ米大統領に対して米朝の直接対話を呼び掛けたことは歴史的な転換点といえる。

現職首脳同士による初の米朝会談が5月末までに実施される見通しとなり、金は祖父も父も得られなかった国家元首としての正当性を認められた。米朝対話が先行して蚊帳の外に置かれることを恐れた中国は、金正恩を招かざるを得なくなったのだ。

「中国は排除されたと感じ、国益を守るために何かしなければならないと感じていた」と、ワシントンの政策シンクタンク、スティムソン・センターの中国プログラム部長のユン・スンは本誌の取材に語った。「アメリカと中国が対立するよう巧みに操ることで、北朝鮮は影響力のある立場を手にした」

中朝は長らく強固な同盟関係にあったが、この数年間は関係が悪化していた。そうしたさなかに中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は金を招待し、金もそれに応じた。

ユンによれば、2013年3月に国家主席に就任した習は、金とどちらが先に相手国を訪問するかをめぐってにらみ合っていた。年長者の習は金が訪中することを望んでいたが、金は6年間、訪中に応じなかった。その間に北朝鮮の核・ミサイル開発はますます進展し、中朝関係は悪化の一途をたどった。

中国はトランプが北朝鮮を脅すのを批判してはいたが、その一方で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけるというトランプの方針には賛同していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中