ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国自動車メーカー吉利の「秘密工作」
3月2日、独自動車大手ダイムラーは、中国の自動車メーカー浙江吉利控股集団が、同社の株式約10%を取得したことを2月23日発表し、金融市場とドイツ監督当局を仰天させた。写真は吉利の李書福董事長。独ベルリンで2016年10月撮影(2018年 ロイター/Hannibal Hanschke)
独自動車大手ダイムラーは2月23日、中国の自動車メーカー浙江吉利控股集団が、同社の株式約10%を取得したことを発表し、金融市場とドイツ監督当局を仰天させた。
突然の動きに見えたが、吉利集団の董事長(会長)を務める李書福氏は、数カ月かけて、これだけの株式を取得するための下準備をひそかに整えていたことが、ロイターが取材・検証した複数の情報提供者・資料から明らかとなった。
吉利社内の情報提供者2人、また同社に近い人物1人によれば、吉利幹部の李軼梵氏が、1年以上前から、ダイムラー株取得を任務とする少人数のチームを率いていたという。
香港の複数のペーパーカンパニー、デリバティブ、銀行融資、慎重に構築された株式オプションを駆使することにより、李書福氏はその計画の秘密を守り続け、突如として、ダイムラーの筆頭株主に踊り出ることが可能になったのである。
結果として投資額は90億ドル(約9500億円)に達したが、ある企業における議決権付き株式の比率が3%・5%を超過した場合にドイツ当局に通知することを投資家に義務付ける情報開示ルールは回避された。上述のような方法で保有株式を積み上げたため、吉利がそうしたルールに違反した兆候はまったく見当たらない。
ダイムラーの上級幹部の1人は「李氏が投資すること自体は意外ではなかった。だが、そのやり方には本当に驚いた」と話した。
数合わせのゲーム
株式を集めるために用いられたペーパーカンパニー「Tenaciou3 Prospect Investment」は、昨年10月27日に香港で設立された。香港の会社登記所に提出された書類によれば、同社の発行済み株式は1香港ドル(約14円)の普通株1株である。取締役は李軼梵氏1人だけだ。
ロイターが11月に報じた通り、ダイムラーは株式取得あるいは技術提携の締結に向けた吉利からの提案を拒否していた。その翌月、Tenaciou3はモルガン・スタンレーおよびバンクオブアメリカ・メリルリンチとの間で、間接的な方法によるダイムラー株取得に向けて支援を得る旨の契約を結び、香港会社登記所への登記書類を提出していた。