最新記事

イタリア

「五つ星運動」が躍進でも、イタリアは再選挙に突入?

2018年3月17日(土)15時30分
デービッド・ブレナン

既成政治に愛想を尽かした有権者はディマイオ率いる「五つ星運動」に希望を託した Sonia Brandolone-Pacific Press-Lightrocket/GETTY IMAGES

<イタリア総選挙で「五つ星運動」は上下院の第1党になったが、過半数には届かず連立交渉の行方は不透明に>

3月4日に実施されたイタリアの総選挙では、予想どおり「五つ星運動」が大躍進し、単独政党としては上下院で第1党となった。

政党グループでは、ベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合が上下院の最大勢力となったが、五つ星と同様、過半数には届かなかった。そのため過半数議席を握る政党がない「ハングパーラメント」(宙づり議会)状態となり、連立政権樹立に向けた交渉が行われる。

中道右派連合内では、反EUを掲げる極右の「同盟(旧・北部同盟)」が、ベルルスコーニの「フォルツァ・イタリア」を抑えて得票率でトップに立った。中道右派連合を軸にして連立政権が発足すれば、同盟のサルビニ党首が首相に就任する見込みだ。サルビニは「イタリア第一主義」を叫び、政権を取ったら毎年10万人の難民を国外退去させると豪語してきた。

レンツィ前首相率いる与党・民主党を中心とする中道左派連合は敗北を喫し、レンツィはその責任を取って党首の座を降りると記者会見で述べた。

五つ星は09年にお笑い芸人のベッペ・グリッロと、起業家でウェブ戦略担当のジャンロベルト・カサレッジオが結成。17年9月に党首に就任した31歳のルイジ・ディマイオの下で保守・リベラル双方の政策を取り入れ、幅広い支持を獲得している。

今回の選挙の主要な争点は、難民の大量流入と経済の低迷、深刻な失業に対する処方箋だ。既成政党に失望した有権者は、こうした問題を一気に解決する「荒療治」に期待し、極右やポピュリズム政党に票を投じた。

イタリアには過去4年間に60万人前後の難民が流入。イタリアだけが重荷を背負わされているという不満から、有権者はEU各国に難民受け入れ枠を割り振る五つ星案を支持した。ディマイオはイタリア海軍が地中海で行っている難民の救助活動を「海運タクシー・サービス」と呼び、中止を呼び掛けてきた。

危機感を募らせるEU

一方で、五つ星は労働者の権利の保護・拡大を主要な政策に掲げ、労働者の経営参加や労働時間の短縮を打ち出している。現政権が進めてきた労働市場・年金改革を見直し、退職年齢を引き下げ、労働者を解雇しにくくすることも公約に入れてきた。

さらに、2050年までに段階的に化石燃料の使用ゼロを目指すほか、月額780ユーロ(約10万円)のベーシックインカムの導入も約束。外交ではロシアとの関係改善を掲げている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中