最新記事

香港

香港民主化を率いる若きリーダーの終わりなき闘い

2018年3月10日(土)15時30分
クリスティーナ・チャオ

magw180310-hongkong02.jpg

14年の雨傘革命を率いた香港の若者たちの民主化への闘いは今も続いている Lam Yik Fei-Bloomberg/GETTY IMAGES

もしも今秋、ノーベル平和賞に選ばれたら、黄は14年に17歳で受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイに次いで2番目に若い受賞者となる。

中国でただ1人この賞を受賞した人権活動家の劉暁波(リウ・シアオポー)は、国家政権転覆扇動の罪で服役。その後肝臓癌が悪化し、昨年7月に当局の監視下で入院中に死去した。

劉と比較されるなんておこがましいと、黄は言う。劉が耐え抜いた苦難に比べれば、自分に対する弾圧など「痛くもかゆくもない」というのだ。

世界的に有名になった今も、黄はメディアにもてはやされるのを嫌い、政治に関係ないプライベートな事柄を聞かれるといら立ちを隠さない。ネットフリックスのドキュメンタリー『ジョシュア 大国に逆らった少年』では、親友が彼のことを民主化運動用にプログラミングされた「ロボット」と呼ぶ場面が登場する。

中国政府は、米議員団が黄らをノーベル平和賞候補に推薦したことに猛反発。明らかに政治的な動きであり、内政に対する干渉だと決め付けた。中国共産党機関紙人民日報系のタブロイド紙「環球時報」掲載の論説は、黄らの推薦を「お笑い草」と切り捨て、「ノルウェーのノーベル賞委員会が米議員団の指令に無分別に従うとしたら恥ずべきことだ」と断じた。

判決破棄は「最終警告」

しかし現実主義者の黄は、受けられる支援は喜んで受ける。16年には渡米してナンシー・ペロシ民主党下院院内総務と共和党のルビオおよびトム・コットン両上院議員と会談した。

当時、ルビオとコットンは香港の自由を抑圧する中国本土の高官を処罰する香港人権・民主法案を提出するために黄を利用した。会談はアメリカが香港への政治的投資の対象を多様化し、陳方安生(アンソン・チャン)元政務官らベテラン政治家以外にもネットワークを広げていることを見せつけた。一方、政治的な動きが下火になっていた黄にとっては、注目度を上げるのに役立った。

最近の欧米諸国での政治的混乱は香港の民主化を追求する妨げになっているかと尋ねると、黄は笑った。「少なくともアメリカの人々は選挙で次の大統領を選ぶことができる。香港では自由選挙で指導者を選べるまでの道のりはまだまだ遠い。直接比較するのは難しい」

2月6日の終審法院の判断については手放しで喜んではいない。むしろ、市民的自由と香港の司法の独立にどう影響するかが気になるという。

終審法院は黄と羅冠聡(ネイサン・ロー、24)および周永康(アレックス・チョウ、27)の「非合法集会」罪をめぐる2審判決を破棄したが、この判断はいわば当局からの最終警告に等しかった。馬道立(ジェフリー・マー)首席法官は「無秩序や暴力の要素は抑止すべき」であり、今後の抗議や不服従にはより重い「実刑を科す」とクギを刺した。

「現状を楽観してはいない」と、黄は言う。「終審法院の判断は抗議デモ参加者に対し、厳格な基準の適用を示した。今回の終審法院の判断を『一見甘い』と表現したのは、これで今後自由選挙を求めて闘うことが今まで以上に困難になったからだ」

黄は14年の雨傘革命の際に裁判所からの撤収命令に逆らった罪でも禁錮3カ月の判決を受け、やはり上訴している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中