王毅外相「精日(精神的日本人)」に激怒――全人代第二報
なぜ抗日ドラマが多いかというと、ドラマや映画は全て国家による許可制だからだ。内容が抗日だとして申請すると、すぐに許可が下りる。制作者側としては興行的に儲けるために、勢い視聴者の興味をくすぐる「エロ、グロ、ナンセンス」に走り、過当競争を生き抜こうとするようになった。慌てた中国政府は抗日ドラマに対する制限を設けたが、時すでに遅し。DVDなどで出回ってしまった。
3.学校教育において愛国主義教育を過剰に行ない、抗日戦争の跡地である愛国主義教育基地を参観することが義務付けられていることに対して、嫌気がさす若者が現れはじめた。
4.本当に中国共産党が言うように、日中戦争時代に中国共産党軍は勇猛果敢に日本軍と戦ったのかを疑問視する者が現れ始めた。それは最初のうちは抗日ドラマと現実との非整合性から発せられた疑問だったが、やがて拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』の中国語版が出版され、Great Fire Wall(万里の防火壁)の「壁越え」をして情報を入手する者が現れるようになった。これは「精日」現象とは異なる、深刻な問題を習近平政権にもたらすようになっている。
英雄烈士保護法――今年の全人代で
今年の全人代で「英雄烈士保護法」という法律が新たに制定されることになる。これは日中戦争時代に日本軍と「勇猛果敢に戦った」とされている中国共産党軍の「抗日神話」に対して、「それは事実に反する」といった批判をすることを絶対に許さないという法律だ。批判した者は犯罪者になり逮捕される。英雄烈士を愚弄し、中国共産党を侮辱した罪である。
習近平氏の国家主席終身制を可能ならしめる憲法改正の目的は「中国共産党による一党支配体制の維持」にあるが、この「英雄烈士保護法」も、その一環とみなしていいだろう。
反日戦略と習近平の国家主席終身制は同一線上にある。
それでいていま中国が日本に対して、あたかも友好的であるかのような顔を見せているのは、1月29日付けのコラム「米中険悪化――トランプ政権の軍事戦略で」に書いたように、米中関係が悪化した時の担保として日本を必要とするからであって、決して友好的感情からではないことを、日本人および日本政府は肝に銘じておかねばなるまい。
ことここに至ってもなお、日本の報道や研究者には、憲法改正による国家主席の任期撤廃を「権力闘争」の結果と分析しているものが散見される。それは中国を見る視点を誤らせ、日本の国民にいかなる利益ももたらさない。まさに視聴者や読者の興味をそそることに重点が置かれた姿勢ではないかと憂う。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。