リトビネンコ事件再び?ロシア元スパイが毒物で重体──スティール文書と接点も
2006年8月、イギリスのためにスパイ活動をした容疑でモスクワの軍事法廷の被告席に立たされたセルゲイ・スクリパリ Kommersant/Yuri Senatorov/REUTERS
<ロシアの元スパイがイギリスで毒を盛られる事件がまた起きた。ロシア政府は関与を否定しているが、トランプのロシア疑惑にからむ文書との関連も噂され、謎は深まるばかりだ>
イギリス南部に住むロシアの元スパイとその娘が外出中に「正体不明の物質」によって意識不明の重体になった。2006年のアレクサンドル・リトビネンコ殺人事件を連想させるこの事件に関して、ロシア政府はイギリスの捜査当局と協力する用意があるという声明を出した。
一方、イギリスのボリス・ジョンソン外相は、ロシア政府が関与しているならば、責任ある者を処罰するために「必要と判断するあらゆる手段を講じる」と警告した。国の安全保障に関わる事件であるため、イギリスのテロ対策機関が捜査を主導している。
セルゲイ・スクリパリ(66)と娘のユリア(33)は3月4日、イギリス南部ソールズベリーにあるショッピングセンターのベンチで意識不明になっているところを発見され、病院に運ばれた。通報をした目撃者が、2人は「何か強いものを飲んだ」ように見えたと話したため、警察は警戒した。
ウィルトシャー警察の広報担当によれば、毒物検査の結果が出るまでには時間がかかり、今のところ情報を公開する予定はない。
BBCの報道によれば、スクリパリには43歳の息子がいたが、恋人とサンクトペテルブルクに旅行中に肝不全で入院し、その後死亡した。スクリパリの妻も最近死亡し、兄も死亡した。この3人の死は過去3年の間に起きている。
イギリスに寝返った逆スパイ
スクリパリはロシアの軍事情報機関元大佐で、イギリスのためにスパイ活動を行ったとして有罪判決を受けた。
病院では、専門家がスクリパリとその娘が中毒症状を起こしていることを確認、「重大事件」と宣言した。
事件の背後にロシア政府の関与が疑われるなか、ロシアのプーチン大統領の報道官ドミトリー・ペスコフは、イギリス当局から支援要請はないが、モスクワはいつでも捜査に協力する用意があると発表。スクリパリが毒を盛られたことを「悲劇的」だと言った。
スクリパリは2006年にロシア当局に起訴され、スパイ行為で有罪判決を受けた。彼は90年代から2000年代にかけて、ロシアのスパイの身元に関する機密情報を英情報機関に提供したとされている。
判決は禁固13年だったが、10年に米ロが合意したスパイ交換で釈放された。このとき、ロシアに帰還したスパイのなかには「美しすぎるスパイ」として有名なアンナ・チャップマンがいた。
スクリパリはイギリスのウィルトシャー州ソールズベリーに落ち着き、それ以来目立たないように暮らしていた。