直前まで存在した黒田退任=本田日銀総裁案 強い安倍首相の脱デフレ決意
本田氏は昨年11月、ロイターのインタビューで、物価目標が未達成の黒田氏の続投は適切ではなく、名目GDP(国内総生産)600兆円の達成を政府・日銀の共通の目標にするよう共同文書を改訂するとともに、積極的な財政運営も主張した。
その直後、安倍首相とも会い、両者の間でどのような話し合いがあったのか、人事に関連する政府関係者の視線が集まった。
その直後から「本田氏は総裁ではなく、副総裁候補」との観測が、複数の政府関係者から浮上。一部では、黒田総裁、本田副総裁との「情報」も流れていた。
財務省内でも警戒感が走った。「さすがに総裁はないにしても、副総裁起用は十分に考えられる」との思惑が広がり、同省内では非公式に人事の組み合わせなども含め、あり得るシナリオを巡り情勢分析が行われたという。
年明けには与党内でも「『副総裁に本田氏が入るなら続投要請は受けない』と黒田さんが難色を示している」との観測が浮上していた。
だが、複数の関係者によると、1月の段階では、「本田総裁」案は存在していたという。「黒田総裁」案と「本田総裁」案が並列していた局面があったということだ。
この情勢に大きな変化をもたらした1つの要因として、2月上旬に発生した米国発の株価下落と東京市場の動揺がある。日経平均<.N225>も急落し、円高も進行。政府にとって「市場の安定」が政策の優先順位の上位に浮上し、「黒田続投」の追い風となったようだ。
また、森友、加計学園問題で野党の追及が強まる中、安倍首相と旧知の本田氏を日銀総裁に起用することの政治的リスクも、早くから安倍首相に伝わっていたとみられる。
本田氏を強く推していた中原氏は「本田氏に強く反対したのは、麻生財務相だったとみている」と述べている。
また、リフレ派のひとりは匿名を条件に「若田部氏は、本田氏の強い推薦を受けて安倍首相が副総裁候補に取り上げた」との見方を示すとともに、安倍首相の判断には、中原氏の推薦も影響したとの声もある。