同盟よりも南北融和を優先? 韓国文政権は南北交渉のベテラン揃い

2月12日、 平昌冬季五輪のアイスホッケー女子の試合で、統一旗を振って南北合同チームを応援する人々(2018年 ロイター/Brian Snyder)
1989年、22歳の韓国女子大学生が北朝鮮に潜り込んで半島の統一を訴え、当時の金日成主席と面会する映像は、韓国で一大騒動を巻き起こした。
韓国政府の許可なしで行われたこの訪朝を演出したのは、著名な学生民主運動家で、今では文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の秘書室長を務める任鍾晳(イム・ジョンソク)氏だ。
30年近くを経て、現在51歳の任氏は平昌冬季五輪を舞台とした韓国と北朝鮮のデタント(緊張緩和)で中心的な役割を果たしていると、政府関係者や専門家は指摘する。
リベラルな文大統領は、10年近く続いた韓国の保守政権や、北朝鮮の核・ミサイル開発加速によって悪化した南北関係の再構築に向けて、任氏のほか数人の重要プレーヤーを頼みにしているという。
だが韓国内の懐疑派にとって、任氏は、米国との緊密な同盟関係よりも、南北再接近を優先しているのではないかという懸念の中心にいる人物だ。すでに、冬季五輪が北朝鮮プロパガンダの道具に利用されていると、彼らは心配している。
特使か
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が先週、サプライズで文大統領の訪朝を要請したことを受け、この提案を協議するための北朝鮮特使として、任氏の名前が取りざたされている。
他に、韓国国家情報院の徐薫(ソ・フン)長官や、趙明均(チョ・ミョンギュン)統一相なども候補として検討されていると、韓国政府高官は明らかにした。両氏とも、過去に対北朝鮮緊張緩和の「太陽政策」を進めたリベラル政権で役職を務めた経験がある。
金正恩氏の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏らを迎えて10日、韓国大統領府(青瓦台)で開かれたた文大統領主催の昼食会に、任氏は満面の笑顔で出席していた。任氏は翌11日、与正氏ら代表団の送別夕食会を開いた。
「今日はただ、くつろいで食事を楽しんでください」。任氏がゲストにそう語りかけていたと、出席した大統領府高官は言う。
任氏は学生時代、女子大学生を北朝鮮に送り込み、国家安全保障関連法に違反したとして、3年半服役した。女子大学生自身も、帰国と同時に逮捕された。
任氏は本記事向けのコメントの要請には応じなかったが、自身や仲間の元学生活動家が親北朝鮮だとする批判には反撃している。
「あなたが名前を挙げたほとんどの人(元活動家)は、民主化のために命を賭けて戦った。私は、恥ずべき人生は歩んでいない」と、任氏は昨年11月に国会で語った。