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北朝鮮問題

広がる「工作員妄想」~三浦瑠麗氏発言の背景~

2018年2月14日(水)20時40分
古谷経衡(文筆家)

それ故、高度に訓練された北朝鮮の工作員が、現在でも日本の大都市部に潜伏している、というイメージが醸成されていることは間違いが無い。これが「工作員妄想」の遠因である。

進歩する公安の監視能力

しかし、日本の公安当局も手をこまねいているわけでは無く、拉致問題が大きく取り上げられるようになって以降、北の工作員や朝鮮総連とその関係者への監視の目を大幅に強化している。試しに、公安調査庁が発表した「内外情勢の回顧と展望」(平29年、最新)では、"金正恩党委員長への忠誠強化と組織の活性化に取り組む朝鮮総聯"と題して、


(前略)......基層組織の活性化に力を入れ,3 月には,平成 29 年(2017 年)3 月までの 1 年間にわたり,支部組織の強化や「民族教育」活動の強化などを通じて支部活動の活性化を図る集中運動「支部競争」を開始した。この間,「60 日集中戦」(5~7月),「100日集中戦」(7~11 月)に相次いで取り組み,11 月には,朝鮮大学校(東京都小平市)に活動家らを集めて「分会代表者大会」を開催し,活動が活発な分会を表彰するなど,支部・分会活動への一層の取組を督励した。 出典:内外情勢の回顧と展望(平29年)

など朝鮮総連内部の詳しい動きに逐一目を光らせている。とすると、「ソウル、東京、特に大阪がヤバイ」と三浦氏が断定したスリーパーセルなる特殊工作員の存在も、国際政治学者たる三浦氏が公の場で堂々と発言する位の水準で知っているのだから当然、公安の報告書の中にさらなる詳細記事があると思うのが妥当だが、公安当局による報告書の中には「スリーパーセル」なる特殊工作員や活動家の記述は一切存在していない

三浦氏の番組放送後のブログ記事によると、この「スリーパーセル」なる北の特殊工作員は、主に英国のタブロイド紙の報道を根拠としているとしているが、くだんの元記事では「大阪」という地名は一切登場しない。そもそも、英国のタブロイド紙が世界に向けて発信しているほど、「スリーパーセル」なる存在が既知であるなら、目下我が公安警察がただの一行も言及しないのは不自然の極みである。この「スリーパーセル」なる北の特殊工作員が韓国や日本に潜んでいると断定する三浦氏の発言は、根拠の無い「工作員妄想」の一種と言わざるを得ないのでは無いか。

現下、我が公安当局によって厳しく監視対象にされている朝鮮総連やその活動家が、公安のあずかり知らぬところで別途、三浦氏にだけその存在が知られている「スリーパーセル」を見逃しているとしたら大問題であるし、また同時に我が公安警察の調査能力をあまりにも軽視している自虐的発想である。

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