最新記事

水分補給

「1日に水2リットル飲むとよい」はウソ? 

2018年2月27日(火)17時30分
松岡由希子

「1日に水2リットル飲むとよい」はウソ? kieferpix-iStock

<「1日に水2リットル飲むとよい」と言われてきたが、豪モナシュ大学とメルボルン大学の共同研究プロジェクトは、この画一的な基準に異を唱える研究結果を明らかにしている>

私たち人間が生命活動を維持するうえで、水は欠かすことのできないもの。水分摂取量の不足によって、熱中症のほか、脳梗塞や心筋梗塞などの健康障害を引き起こすリスクが高まるといわれている。厚生労働省では、「健康のため水を飲もう」推進運動を立ち上げ、こまめな水分補給を国民に呼びかけている。

「1日に約2リットル」が提唱されてきたが

それでは、いったい、一日にどれくらいの水分を摂取すればよいのだろうか。

長年、その目安として"1日にグラス8杯分(約2リットル)"が提唱されてきたが、豪モナシュ大学とメルボルン大学の共同研究プロジェクトは、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」において、この画一的な基準に異を唱える研究結果を明らかにしている。

共同研究プロジェクトでは、水分を過剰に摂取すると、体内の水分量を適度に維持するべく、脳の働きによって「嚥下阻害」が生じる仕組みに着目。

被験者に、運動で喉が渇いたときと、十分に水を飲んだあとでさらに余分に水分を摂るよう促されたときとで、水を飲み込むのに必要な労力を評価させたところ、後者は前者に比べて3倍の労力を要したという。

さらに、過剰に水を摂取する場合に「嚥下阻害」が存在するのか、fMRI(機能的磁気共鳴映像装置)を使って被験者の脳を調べたところ、喉が渇いているときに比べて、過剰に水分を摂取するときのほうが、水を飲み込もうとする直前に、脳の前頭前野が活性化することがわかった。

自分の体が発するサインに耳を傾けよ

これは、被験者が指示に従ってなんとか水を飲もうと、前頭前野が介入して「嚥下阻害」を無視しようとしていることを示すものと考えられている。つまり、「嚥下阻害」は、体内の水分摂取量を制御するための重要なメカニズムとして機能しているというわけだ。

"過ぎたるは猶及ばざるが如し"----。水分の過剰摂取は、水中毒や低ナトリウム血症を引き起こすおそれがあり、けいれんや昏睡のほか、重症化すれば死に至ることもある。共同研究プロジェクトの一員でもあるモナシュ大学のマイケル・ファレル准教授は「周りからの指示を信じきって必要量をはるかに超える水分を摂取したマラソン選手が死亡するケースも発生している」と述べている。

一日に必要な水分摂取量は、性別や年齢などによって異なるが、適度な水分量を維持するためには、一日の水の摂取量にノルマを課すよりも、自分の体が発するサインに耳を傾けることが肝要のようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏の「政府効率化省」、国民はサービス悪化を懸

ワールド

戦後ウクライナへの英軍派遣、受け入れられない=ロシ

ワールド

ロシア、ウクライナ東部・南部のエネルギー施設攻撃 

ワールド

韓国、中国製鋼板に最大38%の暫定関税 不当廉売「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 7
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中