【次世代加速器】中国が科学技術を制したら世界はどうなるか
科学的に見れば胸が躍る将来像だが、中国の計画には違った面から問いを投げ掛ける必要がある。多くの物理学者が懸念を抱きつつも退けてきた疑問、すなわち政治をめぐる疑問だ。
国際協力と国家にとらわれない精神、科学分野の仲間意識の縮図──それが加速器による実験という場だ。そうした価値観が、外国の知識やアイデアへの敵意を国内で醸成し、科学を国家の威信を高めるツールと見なす独裁的国家の在り方と両立するのか。
現在、世界にある巨大加速器はどれも自由な民主主義国に存在する。中国の科学者が次世代加速器の建設を初めて提案したのは、ヒッグス粒子が発見され、習近平(シー・チンピン)が共産党総書記として国の実権を握った12年のこと。中国に誕生する巨大加速器は習が掲げるスローガン「中国の夢」を体現するもので、この国が1世代の間に科学の一分野で大国として台頭する格好のチャンスになる。素粒子物理学の研究が従来の枠を超えた地域に拡大するのは喜ばしい。だが中国がこの分野で優位を占めれば、長期的に見て素粒子物理学の本質、つまり国際的な取り組みという位置付けが損なわれかねない。
中国の計画をめぐる第一の問題は、独裁国家が国家の威信という偏狭な概念を有すること。それは多数の研究者と資金が必要な「ビッグサイエンス」という国際的な研究形態と対極にある。あの中国科学院の幹部は筆者に、中国の巨大加速器では、LHCでみられるレベルの国際協力体制は実現しないと明言した。
中国の加速器の建設・稼働にかかるコストの7割は中国側が負担する。従って、当然のことながら中国がリーダーシップを独占しようとするだろう。では、プロジェクトのリーダー役となる中国人たちが究極的に仕える相手は誰か。答えは明らかだ。
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