シリアのクルド人をトルコが攻撃、アメリカはどちらに付くか
ISIS掃討作戦が終わりに近づく今も、アメリカはクルド人勢力への支援に力を入れ続けている。シリア政府軍が各地の戦闘で勝利を収める中、アサド政権を支援するイランの影響力が強まっており、その防波堤にしたい考えなのだ。もっとも専門家は、もしアメリカがNATO加盟国でもあるトルコとの協力関係の維持を望むなら、現在の戦略を見直す必要があるかも知れないと指摘する。
米トルコは間接的な「戦争状態」
「アメリカとトルコの政策はゼロサムゲームになっている。トルコはシリアにおけるアメリカのパートナーと戦争状態にあり、その結果、間接的にだがアメリカと戦争状態にある。シリアのクルド人組織であるYPGを巡る対立は、アサド退陣といった共通の目標に向けて両国が同一歩調を取る大きな妨げになっている。アメリカはこの対立の深刻さを過小評価している」と、米軍事研究所のトルコ人アナリスト、エリザベス・テオマンは言う。
「アメリカが政策の基礎を置いているのは、YPGとPKKの間に関係はない、つまりトルコ国内で続いている武力闘争とシリアのクルド人勢力とは無関係だという『神話』だ。アメリカが政策を現実に合わせるまで、トルコの反発はエスカレートするだろう」とテオマンは言う。
トルコはこれまで繰り返し、アサド大統領を非難し、その退陣を求めてきた。だが政府軍の勝利、特に16年12月のアレッポ奪還により、ロシアやイランとともに内戦解決の道を探ることを余儀なくされた。その過程でトルコがロシアの先進的なミサイル防衛システムの調達を決めたことなどにより、シリアをめぐるトルコとアメリカの関係はますます悪化した。
過去最悪の関係
先週、トルコ政府は反政府勢力が支配する唯一の県であるイドリブ県へのシリア政府軍の侵攻をめぐってイランとロシアの駐トルコ大使を呼び出した。さらに米軍がクルド人武装勢力を支援していることでアメリカの代理大使を召喚した。トルコ政府はそれぞれに抗議の意を伝える一方で、アメリカが支援するクルド人勢力に対してのみ軍事行動を起こした。トルコの作戦の背後にはロシアやイランとの協調があったとも伝えられる。
米トルコ関係はこれまでで最悪の状態になったかも知れないが、新たな戦争が近づいているわけでは必ずしもない。もっとも、トルコもしくはYPGがさらに態度を硬化させ、アメリカがどちらかの側に味方することを余儀なくされれば、新たな紛争が発生する可能性もある。