最新記事

アメリカ社会

孤独なオタクをのみ込む極右旋風

2017年12月15日(金)17時30分
ウィリアム・ヒックス

極右勢力の登場でファーリーの世界に激しい対立が起きている(写真はシカゴ郊外のイベントに集まったファーリー) Jim Young-REUTERS

<動物キャラになり切ることを楽しむ「ファーリー」たち、その多くはリベラル派だがこの1年ほどで異変が起きている>

8月のその日、馬のジュニアス(20代前半)は、フィラデルフィア郊外のホテルのブースで反ファシズムのステッカーを配っていた。バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者の集会に抗議していたデモに自動車が突っ込み、1人が死亡する事件が起きたのは1週間前のことだった。

ジュニアスのブースにはフェネック(キツネの仲間)やマンチカン(ネコの仲間)など、さまざまな動物たちがステッカーを求めて行列をつくった。

もちろんジュニアスは本物の馬ではないし、列に並んでいたのもキツネやネコではない。彼らは「ファーリー」。お気に入りの動物キャラになり切り、その動物の仮装をする趣味・嗜好を持つ人たちのことである。この日は、フィラデルフィア近隣で初の大規模イベント「ファリデルフィア」が開かれていた。

ファーリーの多くは、性的マイノリティーで、極めて左翼的な思想の持ち主。自分たちは排除の論理を持たず、あらゆる性的指向の人と社会的な少数派を受け入れていると言う。

しかし、寛容の精神にも例外はある。昨年の米大統領選以降、ジュニアスとファーリーの仲間たちは、ファーリー界の極右勢力「オルト・ファーリー」と激しく対立している。

オルト・ファーリーは、ドナルド・トランプ大統領の支持層である「オルト・ライト(オルタナ右翼)」と同じく、白人至上主義・反グローバル主義の思想の信奉者だ。シャーロッツビルの白人至上主義集会に集まったような人たちと思えばいい。

始まりはツイッターのおふざけだった。最初は右派寄りのファーリーたちが「#AltFurries」というハッシュタグを使い、ファーリー関係の画像などと共にトランプ支持のメッセージを投稿していた。しかし次第に、「人種差別主義者」と批判されるような人たちも参入してきた。

大半のオルト・ファーリーはもっぱらオンライン上で活動しているが、現実の世界で活動する人たちも現れている。17年の夏には、世界最大のファーリー・イベントである「アンスロコン」の会場にトランプ支持のプラカードを掲げ、南北戦争で南軍が用いた南部連合旗(白人至上主義者のシンボルになっている)模様の着ぐるみ姿で登場した人物もいた。

フロリダ州オーランドのイベントでは、オルト・ファーリーのパンフレットを配布する人たちがいた。ナチスによく似た腕章を着ける人たちの姿も見られるようになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中