最新記事

ミサイル防衛

フーシ派のミサイルを撃ち落とせなかったPAC3は頼りになるのか

2017年12月6日(水)18時40分
トム・オコーナー

米軍横須賀基地で北朝鮮のミサイル迎撃に備える自衛隊員とPAC3(4月29日) Issei Kato-REUTERS

<イエメンからサウジアラビアに発射されたミサイルは、アメリカ製ミサイル防衛を突破して着弾していた。これで対北防衛は大丈夫か>

北朝鮮が予想を上回るスピードでミサイルの射程と威力を増大させているというのに、アメリカが誇るミサイル防衛システムの性能に疑問が生じている。最新の報告書は、アメリカの同盟諸国にとってさえ信頼に値しないレベルかもしれないと示唆している。

11月、サウジアラビアに関連した重大な出来事が相次いで起こった。レバノンのサード・ハリリ首相は一時サウジアラビアから帰国できなくなって辞任に追い込まれ、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の主導で大規模な汚職摘発も行われた。イエメンでの戦争も激しさを増している。そんな時、一発のミサイルがサウジアラビアの首都リヤドめがけて発射された。

ミサイル攻撃をしたのは、イエメンを拠点に活動するイスラム教シーア派系の武装組織「フーシ派」だ。サウジアラビア主導の連合軍は、イランが支援するフーシ派と代理戦争を戦っている。サウジアラビアは、フーシ派のミサイルはアメリカ製の地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)よって撃ち落とされた、と発表した。アメリカが世界各地に配備しているミサイル防衛システムだ。

ところが、アナリストのジェフリー・ルイス率いるミドルベリー国際大学院モントレー校の調査チームは、最新のレポートのなかで、それとは異なる「発見」を明らかにした。サウジアラビア当局やドナルド・トランプ大統領の言葉に疑問を投げかけるものだ。

ルイスはニューヨーク・タイムズ紙に対し、「各国政府はPAC3の性能についてとかく嘘をつく。あるいは誤った情報を伝えられている」と語る。「だとすれば、大いに憂慮すべきことだ」

ブルカンH-2は防衛網を突破した

ルイスの調査チームは、ソーシャルメディアで入手した写真や動画を分析した結果、サウジアラビアのPAC3から発射された5発の迎撃ミサイルは、飛んできたミサイルに当たらなかったと結論づけた。フーシ派が発射した短距離弾道ミサイル「ブルカンH-2」は、ミサイル防衛網を突破して着弾したという。

フーシ派が発射したミサイルは目標とみられる国際空港から約0.5マイル(800メートル)逸れて着弾したが、「スカッドの場合、このぐらい逸れることはよくある」とルイスは言う。フーシ派のブルカンH-2は、旧ソ連のスカットミサイルをベースにしたものだ。

「あと一歩で空港は壊滅するところだった」と、ルイスはニューヨーク・タイムズに語っている。

イエメン周辺でフーシ派と戦うサウジアラビア連合の広報担当者は、11月4日の攻撃の直後にBBCニュースで、ミサイルは「迎撃した」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中