中国「民主村」は今 監視と密告に口つぐむ住人たち
習近平国家主席が率いる中国政府は、国民生活のあらゆる面に共産党の統制を浸透させようとしている。こうした方針に対しては、中国当局が人々が異議を唱えることを認めず、市民社会を中央政府に対する挑戦とみなして弾圧している、との批判の声も上がっている。
「習近平氏が2013年に政権の座に就くと、市民社会の限界を押し上げようとする人々を制圧することが、自らの権力を固める政治活動の土台となった」。加トロント大学のダイアナ・フ氏と米マサチューセッツ工科大学のグレッグ・ディステルホースト氏は、「現代中国における草の根政治参加と抑圧」と題した共同論文でそう指摘する。
中国新指導部の発足によって、習主席に権力が集中するなか、一部の専門家は、習政権2期目となる今後5年間も、社会安定を目指す厳格な政策は続くだろうとみている。それは烏坎村のような地域にも影響を及ぼすだろう。
「これまでさまざまな問題に直面してきた中国共産党は、独裁体制で巻き返しを図ると決めた」と、国際人権団体アムネスティー・インターナショナル東アジア担当ディレクターのニコラス・ベクリン氏は述べた。
世界の注目を集めた村
2011年に烏坎村で起きた抗議運動において、前出のZhuang氏は治安当局の機動警官隊から、1万5000人が暮らす海岸沿いの集落を守るためのバリケードを築く作業に加わっていた。電話取材に応じた同氏は、2014年に村を離れ、ニューヨークに亡命中だ。
烏坎村は丘陵と湾に囲まれた美しい土地だ。牧場は草が生い茂り、魚やエビを育む豊かな水辺があり、それらを狙ってカワセミが訪れる。
烏坎村の受難が始まったのは1990年代だ。村の指導部が結んだ一連の不透明な取引によって、農地が次々と土地開発業者に売却され始めたのだ。
2011年には、大勢の村民が売却された土地の返還を訴え始め、この問題が顕在化した。
数カ月に及んだ地元当局や治安部隊に対する抵抗運動は、世界中のメディアの注目を集めた。そしてついに省政府が譲歩し、共産主義国の中国では極めて異例な「民衆の勝利」が実現した。
土地取引の中心だった村の指導部は解任され、自由選挙が実施された。その結果、抗議運動の指導者7人全員が当選した。
だが発足したばかりの新指導部は、すぐに旧指導部の関係者による報復に直面したという。当選から数年内に抗議運動の幹部たちは公職を去り、昨年夏には村長の林祖恋氏が汚職容疑で拘束された。
村長の解放を求め、村人たちは再び立ち上がった。村人の多くが、国営テレビで放送された林村長の「自白」は強要されたもので、容疑はでっち上げだと主張した。