最新記事

中東

サウジ汚職摘発の真相 「王室分裂」はムハンマド皇太子の政敵排除

2017年11月18日(土)11時38分

11月10日、サウジアラビアで政財界のエリート数十名が拘束された汚職摘発で、何か異変が起きているという最初の兆候は、1通の書簡にあった。写真は拘束された11人の王族の1人、富豪で国際投資家のワリード・ビンタラール王子。2013年、ロンドンで撮影(2017年 ロイター/Neil Hall)

何か異変が起きているという最初の兆候は、1通の書簡にあった。サウジアラビア首都リヤドにある高級ホテル、リッツカールトンの宿泊客らは4日、次のような通告を受けた。

「地元当局よりセキュリティ強化を要する予期せぬ予約が入ったため、通常営業に戻るまで、お部屋をご用意できなくなりました」とそこには書かれていた。

このときすでに粛清は始まっていた。数時間内には、治安部隊が主に首都リヤドと沿岸都市ジェッダで、サウジ政財界のエリート数十名を拘束。なかには、11人の王族のほか、閣僚や富豪が含まれていた。

一部は、拘束現場での会合に招かれていた。自宅で逮捕された人々は、飛行機でリヤドまで、それから自動車でリッツカールトンまで護送された。こうして同ホテルは一時的な監獄となった。

拘束された人々は、自宅に1回だけ、短時間の電話を掛けることが許された、と逮捕状況に詳しい関係者がロイターに語った。

「外部からの着信に応じることは許されず、厳重な警備下に置かれた。誰も出入りすることは許されなかった」とこの関係者は語る。「よく準備されていたことは明らかだ」

今回の汚職摘発を命じたのは、サルマン国王の息子ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(32)だ。国王の公式の継承者となった同皇太子は、現在、実質的に国家を運営する立場にあり、サウジを現代国家へと改革することを表明している。

そうした改革遂行に向け、また自身の権力を強化していくため、ムハンマド皇太子は、王族の一部を含む国内エリート層を、収賄や事業コスト水増しなどの容疑で訴追することを決意した。拘束された人々のコメントを得ることはできなかった。

問題は、世界最大の産油国であるサウジの政治安定性だ。ムハンマド皇太子が抵抗を受けずに統治を行うことができるかどうかは、今回の取り締まりの成否次第だ。

国が変わらなければ、サウジ経済は危機に陥り、社会不安が煽られると同皇太子は懸念している。そのような事態は、サウジ王族を脅かし、中東地域のライバルであるイランに対する立場が弱体化する可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米との関係懸念せず、トランプ政権下でも交流継続=南

ワールド

JPモルガンCEO、マスク氏を支持 「われわれのア

ワールド

サウジ王子の投資会社、TikTok出資も マスク氏

ワールド

ウクライナ支援「欧州が最大」、EU外相がトランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中