日中首脳会談、習近平はなぜ笑顔だったのか
なぜなら中国外交部のホームページに掲載されているように、2017年10月31日、中国と韓国は「中韓関係に関する意思疎通」という中韓合意文書を締結しているからである。この合意の中における肝心な要素は、「中国は日米韓軍事協力などと関連し、中国政府の立場と懸念を明らかにした」という文言で、これは「日米韓における安全保障協力は決して軍事同盟にはつながらない」ということを意味する。事実、この精神に基づき韓国外相は国会で「韓米日安保協力が三者軍事同盟に発展することはない」と答弁している。
ベトナムのダナンでも11日、中韓首脳会談が行われ、改めて「日米韓の安全保障協力関係を、絶対に軍事同盟に持っていかなこと」が約束された。そのことを要求する習主席に、文大統領は「どんなことがあっても守ります」と、まるでへつらうような満面の笑顔で応えていた。その仲の良さを裏付けるように来月の訪中の約束を取り付けている。
すなわち、「反日」は、このような北東アジア情勢の形成に大きな影響を与える形で進んでいるのである。
習近平政権は、絶対に反日デモを許さない。
なぜなら反日デモは必ず反政府デモにつながることを知っているからだ。それくらい、人民の不満は大きく、政府は人民を信用していないのである。
だからこそ、なおさら、一刻も早く「中国の夢」を叶えなければならないし、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げなければならない。
日本は中国の覇権に、また手を貸すのか
1989年6月4日に、民主化を求める若者たちの口を銃口で塞いでしまった天安門事件が起きた。そのあまりの残酷さに、西側諸国は中国に対する経済封鎖を断行した。
それをいの一番に破ったのは日本である。
1992年には、江沢民の要求に応じて、天皇陛下の訪中をさえ決行している。中国の計算通り、それを見た他の西側諸国は経済封鎖を解き始め、特に日米が中心となって中国への投資を加速させ、こんにちの中国の繁栄をもたらしたのである。
江沢民はあのとき、天皇陛下の訪中さえあれば中国は二度と歴史問題を口にしないと言いながら、実際はその逆だ。経済成長した中国は、その分だけ日本に対して歴史問題を厳しく突き付けるようになった。
もしあのとき、日本が中国に手を差し伸べていなければ、中国はあるいは民主化への道を歩むチャンスを得たかもしれない。しかし日本が手を差し伸べて以降、急速な経済発展を遂げた中国は、日本に歴史の反省をしろと要求するだけでなく、国内における言論弾圧を著しく強化するようにもなっている。
「習近平の笑顔」を喜ぶということは、日本は中国の世界制覇に、またもや手を貸そうとしているに等しい。中国の言論弾圧に手を貸し、中国の民主化のために努力し苦しんでいる少なからぬ人民への弾圧にも協力しているに等しいのである。
この構図が分からないのだろうか。このような言論弾圧をする国が世界を制覇することにより何が起き始めるかを、日本には考えてほしい。真の自由と民主に対する日本の責任は大きいのだ。贖罪意識の使い方を間違えてはいないのか。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。