高橋和夫:「米史上最悪の救出作戦」の起きたイラク戦争が、ISと北朝鮮の脅威を生んだ
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<イラク戦争の重要な転機となった武力衝突事件「ブラックサンデー」の全貌を、ナショナル ジオグラフィックが総力を挙げて描く新番組「ロング・ロード・ホーム」。日本での放送開始に先駆けて、イラク戦争の知られざる裏側や同ドラマについて、有識者が語るインタビューシリーズ>
▶︎ドラマ『ロング・ロード・ホーム』から見える戦争のリアル
▶︎モーリー・ロバートソン:北朝鮮を巡る未来を暗示する「米史上最悪の救出作戦」
──本作「ロング・ロード・ホーム」で描かれるのは、イラク戦争開戦から約1年が過ぎた頃に起きたブラックサンデー事件。そもそもアメリカがイラク侵攻を開始した当時、国際政治の専門家たちは、イラク戦争から現在に至る中東の混迷ぶりを予想していたのだろうか?
当時のアメリカのイラク侵攻に関して、国際政治という大きな枠組みでアメリカの政治を見ていた人は、わりと楽観的な感情を持っていたように思います。それに対し、私のように中東を見ていた人間からすると、戦争に勝ってもその後が大変だろうという大きな不安がありました。
そもそもイラクという国は、イギリスが自分たちの都合で勝手につくりあげたもの。人口構成比を見ると、北部のクルド人が2割、中部のスンニ派のアラブ人が2割、南部のシーア派のアラブ人が6割となっていて、そのようなまとまりのないところを1980年代からサダム・フセインが力で抑えてきたわけです。
サダム・フセインは非道な独裁者でしたし、拷問をされたり刑務所に入れられたり、ひどい目にあった人はたくさんいた。とはいえ、独裁政権の恐怖という重しがあったため、イラクの秩序が保たれていたのも事実です。
──アメリカはそうしたイラクという国の背景を理解せずに開戦を決め、そのことがイラクの混迷につながった?
そう思います。朝鮮戦争やベトナム戦争を経て、アメリカ国民の多くは「もう戦争はいいだろう」という感情を持っていました。冷戦がようやく終結し、やっとこれからは自分の国のことに力を注げると。つまり、アメリカの圧倒的な力を自国のために使おうというコンセンサスが、当時のアメリカにはあったわけです。
ところが9.11のテロが起きて、テロリストがアメリカに来るならまた戦おうじゃないかと、そのコンセンサスが覆されてしまった。そしてアフガン紛争へと突入し、ほとんど犠牲も出さずに1カ月ほどでタリバン政権を打倒する。
そうした流れがイラク戦争へとつながり、フセイン政権を倒すところまでは、アメリカの予想通りに軍事作戦が遂行されました。しかし、その後に、どうイラクを統治するのか。アメリカは考え抜いていなかった。それが「ロング・ロード・ホーム」で描かれるようなイラク人の反乱につながっていったのだと思います。