安倍政権の働き方改革、残業抑制で4-5兆円の所得減 一時手当は効果に限界
手当てやボーナス含めば3%賃上げも可能と楽観視
特に30─40代の子育て世代では、2割弱が残業代を生活費の一部に組み込んでいるとの調査結果があり、 政府としては、固定費拡大につながらない「手当て」での支給を容認する方針。
また、月額賃金1万円増といった定額での賃上げを選択すれば、給与の低い若手ほど増額率が厚くなるため望ましいとの意見もある。
アベノミクス開始以降、定期昇給とベースアップを加えた賃上げ率は2%前後で推移しているが、政府内では、そこに手当てや定額での上乗せ分を加えれば「3%の賃上げ実現も、そう非現実的とも言えない」(先の政府筋)という楽観論も出ている。
これに対し経済界でも、政府の要請を深刻に受け止めている。経団連の榊原定征会長は時間外手当の大幅減少分を原資とした従業員への還元が必要だとして「消費性向の高い子育て世帯への重点配分ということも、労使で知恵を出して考えていくべき」(10月26日の経済諮問会議での発言)と述べている。
経団連は、政府の要請を踏まえ、春闘での対応方針を検討中だ。12月4日の正副会長会議で労使交渉の指針案を示し、来年1月に春闘の指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を決定する。
一時的手当てでの還元に違和感
ただ、労組側やマクロ経済の専門家からは、政府や経済界が「手当て」などでの補てんを議論の対象としていることに疑問の声が挙がっている。
連合総合労働局の冨田珠代局長は「残業規制に伴う働き方の工夫は、労使の知恵の出し合いによるもの。(労働時間の短縮が可能になったということは)生産性が向上したということであり、月例賃金引上げで還元すべきだ」と主張。手当てではなく月例賃金の引き上げで対応すべきと主張する。
日本総研理事の山田久氏の分析では、所得の増加分を消費に回す割合でみても、所定内給与なら9割に対し、一時的なボーナスなどでは4割程度にしかならない。連合では、これを踏まえて「一時的な手当てでは将来不安が消えない。持続的な賃上げで対応する方が経済の好循環につながりやすい」(冨田氏)との見方を示している。
その山田氏は「3%の賃上げを目指すなら、名目成長率がそれ以上でなければ企業は動かない。月例賃金アップを継続するためには将来の展望が必要だが、成長産業に人材を振り向ける雇用流動化や、国内市場縮小を食い止める人口減対策への本腰を入れた取り組みは遅れている」と指摘。「春闘賃上げや残業減など、安倍政権の政策は部分的には正しいが、全体像が見える形になっていない」と見ている。
目先の対策ばかりで、本来取り組むべき根本的な課題が残されたままでは、いずれ効果にも限界がくると警鐘を鳴らしている。
(中川泉 編集:田巻一彦)
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