北朝鮮、観光と兵器で生き残り図る? 金正恩が元山に見る夢
総工費1億2300万ドルのゴルフコース建設予定地からそう遠くない場所に、ある施設の存在が明記されている。パンフレットには、国家保衛省の保養所とされている。同省は、北朝鮮に6カ所ある強制収容所の管理と一般市民の監視をまかされている。
海辺にあるその保養所の隣には、「39号室」として知られる金一族にぜいたく品を調達する機関の保養所がある。
もう1つの施設は、国営の保険会社「朝鮮民族保険総会社」の保養所だ。欧州連合(EU)は同社が保険詐欺に関与しているとみている。
正恩氏のミサイル・核プログラムに資金を供給しているとして、これら3つの機関は国際制裁下に置かれている。
一方、正恩氏の治安部隊にとって、元山は太陽の下でのお楽しみ以上のことを意味している。
正恩氏は2014年、軍上層部を元山に同行させた。自身の豪華な別荘の白い砂浜で、軍幹部らに水着に着替えさせ、能力試しとして10キロの遠泳をさせている様子が国営テレビで放映された。白いパラソルの下で、机の前に座ってそれを見ている正恩氏の姿も映し出された。
今年4月、正恩氏は元山の新空港に近いビーチで、国営メディアが北朝鮮で史上最大と伝えた砲撃演習を実施。同演習では、「大口径自走砲300門」が3キロ先の小さな島にある白く塗られた標的に向かって一斉に砲撃を開始したという。
国営テレビで放映されたこの砲撃演習は、その島を月面のように殺風景な埃っぽい場所に変えてしまった。
プラスチックの花
元山は、金王朝において象徴的な重みを持つ。正恩氏の祖父で、北朝鮮建国の立役者となった金日成(イルソン)主席が、日本による植民地支配が終わった1945年に、国の支配権を奪うため当時のソ連軍とともに上陸を果たした地だからだ。
波止場には金日成氏と金正日(ジョンイル)総書記の親子2代の指導者の像が立ち、観光客は礼をして、プラスチックの造花を買ってささげることになっている。国営メディアによると、金一族の別荘に隣接する松濤園国際少年団キャンプ場は、旧ソ連圏諸国から「若き先駆者」を何十年も受け入れてきた。
正恩氏は、正日氏の後継者に選ばれた2009年時点で目立った功績がなかったと、韓国産業銀行で北朝鮮調査の責任者を務めるKim Young-Hui氏は言う。建国の父の金日成主席に縁の深い元山開発に成功すれば、偉大な建設者としてのイメージを確立することができる。
「彼(正恩氏)には、元山を開発する強力な政治的動機がある」と、Kim氏は言う。Kim氏自身元山の出身で、2002年に脱北した。
元山出身者は、脱北者でさえ、故郷におおむね良い思い出があると語る。元山のカラオケバーやビリヤード場には、北朝鮮の他の町に比べ、電力が安定供給されていたと、彼らは言う。海辺の広場では、若いカップルがローラースケートで遊んでいたことを覚えている人もいる。