最新記事

北朝鮮

北朝鮮、観光と兵器で生き残り図る? 金正恩が元山に見る夢

2017年10月23日(月)16時32分

元山は正恩氏の心に特別な位置を占めている。そう語るのは、カナダ人コンサルタントで、北朝鮮で経済調査などを行っている白頭文化交流社を運営するマイケル・スペーバー氏だ。同氏は2013年、正恩氏と一緒に元山の海でジェットスキーを楽しみ、正恩氏のプライベートな船で一緒にカクテルを味わっている。

「彼は、人々のために街全体を再開発して改善し、外国人観光客やビジネスマンを呼び込みたいと語っていた」

ベルトをきつく締めなくても

正恩氏の出生地は明らかになっていないが、幼少期を元山の別荘で過ごしたこともあり、当地の生まれだと考える地元の人も多い。

別荘での金一族の暮らしぶりを物語るエピソードがある。専属料理人を務めていた藤本健二氏の2010年の回顧録によると、ある日、将来の指導者はこんなことを言ったという。

「フジモト、僕たちは毎日乗馬して、ローラーブレードやバスケットボールで遊び、夏にはジェットスキーやプールで遊ぶ。でも普通の人たちは何をして暮らしているんだろう」と、少年時代の正恩氏は尋ねた。藤本氏は現在平壌で寿司屋を経営しており、連絡がつかなかった。

ソ連と中国を後ろ盾に、金正日体制下の北朝鮮では長年、国民が必要とするものはすべて国が供給していた。

当時の政治モデルは「先軍政治」と呼ばれ、朝鮮人民軍がすべての資源配分において優先され、国の経済問題を解決する無謬(むびゅう)の提供者とされていた。「100万人軍」が、カラシニコフ銃をショベルに持ち替え、道やダム、住宅の建設に取り組むとされた。

ソ連崩壊後の1990年代には、当時人口約2100万人だった北朝鮮全土で、正日氏が後に「苦難の行軍」と呼ぶことになる飢饉(ききん)が起きた。国家はもはや食料や仕事を供給できず、20万人から300万人が死亡したといわれる。

生き延びるために、一般市民も軍事パレードの先を読み、私設市場で残飯を得るために必死になって、役人に賄賂を贈って違法行為を見逃してもらわざるを得なかった。軍人も含めたほとんどの国民にとって、それは飢えるか闇取引をするかの選択だった。

正恩氏は権力についたとき、「これ以上、ベルトをきつく締めなくても国民が生活していけるようにする」時が来た、と語っていた。

同氏は2013年に政策を変更し、「並進路線」を提唱して祖父の時代への回帰路線を明確にした。それは、核抑止と経済を同時並行で前進させることを意味した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米共和党、トランプ氏政策推進巡り意見対立 法案分割

ワールド

UAE・シリア両外相、「兄弟的」関係の強化協議

ワールド

ベネズエラがパラグアイと国交断絶 大統領選の野党候

ビジネス

イスラエル中銀、8会合連続で金利維持 インフレ緩和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 2
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻止を喜ぶ環境専門家たちの声
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    空腹も運転免許も恋愛も別々...結合双生児の姉妹が公…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    ウクライナ水上ドローンが「史上初」の攻撃成功...海…
  • 8
    ウクライナの「禁じ手」の行方は?
  • 9
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 10
    プーチンの後退は欧州の勝利にあらず
  • 1
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 2
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 3
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に突き落とした「超危険生物」との大接近にネット震撼
  • 4
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 5
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 6
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 7
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 8
    「これが育児のリアル」疲労困憊の新米ママが見せた…
  • 9
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 10
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中