なぜノーベル平和賞の受賞者は、その後に世界の「失望」を招くのか
あまりに高い代償
スー・チー氏を厳しく批判している1人が、ツツ氏だ。「親愛なる妹」と呼ぶスー・チー氏に宛てた9月7日付けの書簡で、同氏は「ミャンマーにおける最高権力者に登りつめたことの政治的な代償が、あなたの沈黙だとすれば、その代償はあまりにも大きい」と記した。
9月19日、スー・チー氏はラカイン州における人権侵害を非難し、違反者は処罰されると述べた。このメッセージの語調は西側諸国の外交・援助当局者から歓迎されたが、国際的な批判をかわせるだけの十分な行動が伴っているのかを疑う声もある。
ストックホルム国際平和研究所のダン・スミス所長は、この1991年のノーベル平和賞がロヒンギャ族に害をもたらしている可能性さえあると話している。
「彼女にはある種のオーラがある」と同所長はスー・チー氏について語った。国際社会での輝かしい名声が、ロヒンギャに対する多年にわたる迫害の「真のおぞましさを隠蔽しているのではないか」と言う。
「ロヒンギャ問題に関する質問に対して、彼女が『どうして他の問題ではなく、その問題にだけ関心を注ぐのか』と答えると、人々はつい、好意的に解釈してしまう」
スー・チー氏は、南アフリカのネルソン・マンデラ氏と同様、政治犯から国家指導者へと登りつめた、めったにない成功者である。マンデラ氏は5年にわたって南アフリカ初の黒人大統領を務めた後、その名声にほぼ傷を負わないまま引退した。だが、アパルトヘイト時代の解放運動における彼の同志たちのなかには、公職にあるあいだにスキャンダルに直面した者もいる。
「(名声が損なわれるのは)恐らく、人権と一般市民の擁護者という大胆で英雄的なイメージから離れ、妥協に満ちた、もっと汚い政治の世界に入っていく際の避けがたい動きなのだろう」と所長は言う。
聖人と罪人
聖人でさえ批判を免れない。1979年のノーベル平和賞を受賞した修道女のマザー・テレサは昨年、ローマ法王フランシスコによってカトリックの「聖人」の列に加えられた。だが1994年には、彼女の運営するコルカタのホスピスが、死期の近い患者の診察をせず、強力な鎮痛剤も与えていないとして、英国の医学専門誌「ランセット」に批判されている。
2012年に欧州連合(EU)に平和賞を与えるという決定も、当時から批判を浴びている。当時、EU本部は加盟国ギリシャに対して苛酷な財政支援条件を課していたが、多くのエコノミストは、こうした条件がギリシャ国民の生活を破壊したと指摘。またツツ氏らを中心に、EUは軍事力を行使する組織であるとの批判もあった。