最新記事

アフリカ

トランプ入国禁止令に追加されたチャドはアメリカの同盟国

2017年9月27日(水)17時20分
ルビー・メレン

アフリカ連合(AU)議長国として、昨年のG20杭州サミットに出席したチャドのイトゥノ大統領 Mark Schiefelbein-REUTERS

<チャドを拠点とする対テロ作戦はどうなるのか。非イスラムのベネズエラと北朝鮮を加えて反イスラム色を薄める狙いも?>

ドナルド・トランプ米大統領は9月24日、同日に期限切れとなった大統領令に代わる新たな入国禁止令を発表した。新たな対象国は、チャド、イラン、リビア、北朝鮮、ソマリア、シリア、ベネズエラ、イエメンだの8カ国。ホワイトハウスによれば「危険なテロと国境を超えた犯罪の時代に、米国民の安全を守るための重要な一歩」だ。

だが、本当にそうか。ベネズエラと北朝鮮が対象国に追加された背景は、まだ理解できる。両国とも米政府との対立が激しさを増し、米政府がすでに厳しい経済制裁を科している相手だ。だが、チャドが対象国に追加されたのには、専門家も驚きを隠せない。チャドは、アフリカにおけるテロとの戦いでアメリカの最も緊密に連携する国の筆頭だからだ。

「入国禁止の対象国にチャドが追加されたことに困惑している」と言うのは、米シンクタンク、戦略国際問題研究所でアフリカ・プログラムの副所長を務めるリチャード・ダウニーだ。「まったく意味不明で、理由を理解しようという気にもならない」

苛立つ関係者

アフリカ中部の内陸国チャドは、リビアやスーダンや中央アフリカ共和国など紛争や暴動が絶えない国に周囲を囲まれており、同地域でのテロとの戦いで重大な役割を果たしている。チャドにはイスラム過激派組織ボコ・ハラムの掃討作戦に従事する多国籍部隊が本部を置き、チャド軍の兵士も戦闘に参加している。フランス軍もアフリカで対テロ部隊の本部をチャドに置く。しかもチャドは、アフリカで「テロの脅威に対抗し暴力的な過激思想の拡散を防ぐ」ことを目標にアメリカが主導する「トランス・サハラ・対テロパートナーシップ」(TSCTP)の参加国でもある。

トランプ政権は、チャド国籍を持つ人々のアメリカへの入国を禁止する根拠について、「チャドが公共の安全やテロに関する情報共有を十分に行わなかったため」と主張。チャド国内で「複数のテロ組織が実際に活動している」ことも理由に挙げた。

チャドがデータや情報共有で手を抜いていた可能性はあるにせよ、それだけでは、あえてチャドを対象国に加える決定的な根拠になり得ないと、ダウニーは指摘する。「米政府の要求を満たす情報提供を怠っている国は、決してチャドだけではないはずだ」

トランプ政権がなぜ、チャドを入国禁止の対象国に加えたのか、決定の理由がわからず関係者は苛立っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中